カノエさんの演舞練習を見て以来、私は森へと見学に訪れることが多くなっていた…―。
今日はカノエさんだけではなく、一緒に踊る人全員での全体練習を行っていた。
いつもは静かな森の中に、たくさんの人の息が溢れ、湿度が上がったように感じる。
(今日は一段とすごい熱気。やっぱり人が増えると調整するのが大変みたい……)
カノエ「そこ、一拍遅れてるぞ。手拍子の後、裏拍で足をあげるんだ」
男1 「はいっ!」
カノエ「それからお前は、逆に早すぎる。皆の動きをよく見るんだ」
男2 「わかりました」
練習の間中、カノエさんの鋭い声が飛び続ける。
(すごい気迫……それに集中力)
カノエ「ここで休憩しよう」
カノエさんのその言葉で、一気に皆の緊張が解けた。
(私まで緊張しちゃった……)
森の木陰で、小さく息を吐くと……
カノエ「見飽きないのか」
カノエさんが私の傍にやって来て、汗を拭きながら声をかけてくれた。
○○「はい。本番さながらで、見ていて楽しいですから……それにこの踊り。 前の世界にいたときに見た、よさこいに似ているなあと思って……」
カノエ「へえ、似た演舞があるのか?」
興味を持ったのか、彼の琥珀の瞳がきらりと光った。
○○「はい。皆で振り付けを考えるんですが、集団で陣形や舞いに個性が出て……」
カノエ「へえ。なるほどな。確かに似てる」
カノエさんは頷きながら聞き、私をじっと見つめる。
カノエ「この祈念の儀の担当は毎年変わるんだ。 そのたびにどんな祭りになるかは、その年の王族の色が出る。 各王族が、それぞれの誇りにかけて準備をしているんだ」
熱く語るカノエさんの話に引き込まれ、静かに耳を傾けた。
カノエ「けど、見栄えや競争意識ではなく、どの王族も祭りを盛り上げたいという一心でやってることだ。 自分も民の全員が楽しめるような祭りにしたい、だから必ず成功させる」
清々しいくらいに言い切るカノエさんに、私まで胸が熱くなる。
カノエ「っ……悪い。熱く語りすぎた」
ハッと気づいたように、カノエさんが口を閉じてから首を振った。
○○「もっと聞きたいくらいです」
カノエ「物好きだな」
そう言ったカノエさんは横を向いていたけれど、照れているように見えた。
カノエ「と、そろそろ時間切れだ」
休憩が終わりに近づき、カノエさんが戻ろうとした時だった。
男1「お前、ぶつかりすぎだぞ。やる気あんのか?」
男2「なんだと?それはお前の方だろ!?」
突然の怒鳴り声に、心臓が跳ねる。
カノエ「何をしてる!二人とも、止めろ!」
すぐにカノエさんが飛んでいって、睨み合う二人の間に割って入った。
どうやら陣形についてもめているらしいけれど、どちらも引きそうにない。
(大丈夫かな……?)
不安になりながらも見守っていると、ついに怒りの矛先がカノエさんへと向けられた。
男2 「元はと言えば王子の采配に問題があるんじゃないんですか?こんな陣形作って!」
カノエ「……!」
(そんな……)
どうにか練習は始まったけれど、険悪な空気が広がり連携が取れなくなる。
踊りの統率であるカノエさんの言葉も、虚しく響くばかりとなった。
カノエ「……」
急に入った亀裂はかなり重い問題となり、その後の練習もうまく揃わず、いまだカノエさんは不満を向けられたまま…―。
それなのに祭りの日時は刻一刻と迫ってくる。
(どうなってしまうんだろう……?)
心配なのに見守るだけしかできないことが歯がゆくて、私は無力さに胸を締めつけられていた…―。