カノエさんが九曜の街を案内してくれると約束してくれた翌日…―。
九曜の街は今日も晴天の下、太陽の光を屋根瓦が弾いてまぶしいくらいに輝いている。
その日差しに何度目か目を細めながら、私はカノエさんが案内する街並みを眺めてまわった。
(さっきからたくさんの人が忙しそうに走りまわってるような……)
カノエ「どうかしたか?」
私が不思議そうに人の動きを見ていると、カノエさんに声をかけられた。
○○「活気のある街だなと思って……」
カノエ「ああ、それは祈念の儀の前だからだ」
○○「祈念の儀……?」
カノエ「祭りみたいなもんだな」
○○「……お祭りがあるんですか?」
カノエ「ああ。今回の祭りからは、申の王族が九曜の神楽殿を1年守っていくことになっているからな。 皆、準備に張り切っているんだ」
○○「そういうことだったんですね」
活き活きとした表情で駆けまわる人達の、大きな声があちこちで飛んでいる。
(選択肢―太陽― 賑やかな街ですね)
○○「賑やかな街ですね」
カノエ「騒々しいくらいだろうが、そこがこの街のいいところだろうな」
○○「はい。そう感じます」
(素敵……活気も熱気も溢れてて)
皆の様子に、目を奪われていると…―。
男「危ないぞっ」
突然後ろから怒鳴り声が聞こえ、振り返った。
○○「あ…―」
見れば、大きな荷物を抱えた人が私のすぐ後ろまで迫っていた。
カノエ「こっち寄ってろ」
ぶつかりそうになる寸前、カノエさんの腕に腰元を引き寄せられた。
○○「……!す、すみません、気づかなくれ……夢中になってしまって」
彼の手が離れた後も、その熱が残ってドキドキしてしまう。
カノエ「気にするな。祭りの準備期間中だからな」
カノエさんはそう言って、何でもないことのように笑ってくれた。
(皆が慕うのもわかるかな……優しくて、頼りがいがあって)
さっきの大荷物の人は、忙しい様子でそのまま角を曲がっていった。
○○「あの荷物は何の準備でしょう?」
カノエ「あれは演舞台の用意だな。街の広場で組み立てて、祭りに参加する民達が芸を披露するんだ。 一番大きいのは俺達が踊る大舞台だが、あちこちに小舞台も作るからな」
○○「……そうなんですね。あ、じゃあ、あれは何ですか?」
ちょうど目の前を、今度はたくさんの提灯を持って歩く人を見かけて、続けざまに聞いてしまう。
カノエ「あれは道案内用に角々にかける提灯だ。矢印がついているだろう?」
○○「あっ、本当ですね」
その後も、私のどんな質問に対しても即座に彼の返事がかえってきて……
○○「……全部、頭に入っているんですか?」
カノエ「当然、入っている。王子がここの全てを取り仕切るのがしきたりだからな」
さも当たり前であり、何でもないことのようにカノエさんは答えるけれど、この規模を一人で取り仕切ることに、私は目を丸くした。
カノエ「そんなに驚くことか?」
不思議そうに首を傾げるカノエさんに……
○○「尊敬します」
カノエ「そう言ってくれるやつは……多いけど。 王子として当然の務めだから、俺にはピンとこない」
平然としてそう言う彼に、私は尊敬の念を抱いた。
(だから、皆から信頼されてるんだ)
一人で心の中で頷いていた、その時…―。
男「カノエ様、今日もいつもの場所で」
カノエさんと同じような格好をした男性が前から歩いてきて、私達に声をかけた。
カノエ「ああ」
○○「……?何かあるんですか?」
カノエ「まあな。別に大したことじゃないが」
○○「?」
カノエ「楽しみは取っておくんだろ?」
カノエさんの大きな手が、ごく自然に私の頭の上に乗せられた。
(……何でだろう、ドキドキする)
それ以上は深く聞けなかったけれど……
少し早くなる鼓動を感じて、私はそっと小さく吐息を吐いた…―。