カノエさんと城に辿りつくまでの間、たくさんの人達から明るい声をかけられた。
(最初は近寄りがたい雰囲気だなって思ってたけど……皆から慕われてるんだ)
街の人達とやり取りをするカノエさんの様子を見て、私は、硬い表情の向こうにある彼の人柄を思った…―。
木々でできた廊下は、ほのかに檜の匂いが漂っている。
歩くたびに、まるで鶯の鳴き声のような音がした。
(かわいい音……)
その音に心弾ませながら足を進めていくと……
カノエ「さっきは……いきなり奴らに囲まれて怖かっただろ、悪いな」
急に前を歩いていたカノエさんが私の方に向き直って、ばつが悪そうに後頭部を掻く。
○○「大丈夫です。むしろ賑やかで楽しいですし……皆さん、いい人達ですね」
笑ってそう返すと、カノエさんは整った眉を少し上げ、驚いたように目を見開いた。
濃い琥珀色の瞳に、私の微笑みが映っている。
カノエ「怖くなかったのかよ?」
○○「はい」
少し驚いた顔をしていたカノエさんが、ふっと頬を綻ばせた。
カノエ「へえ……お前、変わってるって言われるだろう?」
(あ……こんな風に笑うんだ)
初めて見る表情の柔らかさにどきっとして、胸にそっと手を当てる。
カノエ「そうだ。せっかくだから、街を見ていくといい。 それにしても、お前、今年この国に来るなんて運がいいな」
(運がいい……?どういうことなんだろう?)
○○「何かあるんですか?」
私が首を傾げると、カノエさんは面白そうに目を細めた。
カノエ「それはまだ言えない。見ればわかることだしな」
○○「ドキドキします」
プレゼントを開ける前のような、ドキドキする待ち遠しさを感じて……
○○「なんだか楽しみが増えたように思えます」
カノエ「いい考え方だな」
カノエさんが、嬉しそうに目を細めた。
カノエ「明日、街を案内してやるよ。それまであれこれ想像して楽しみにしておくといい」
○○「はい。そうします」
カノエ「いいことは、とっておくと喜びが倍増するからな」
○○「私も、そう思います」
(早く明日になって欲しい……)
カノエさんの瞳には、力強い光が宿っている。
その表情を見るだけで、胸が期待でいっぱいになっていった…―。