海岸で〇〇と会うようになってから、数日…-。
サラサ「……こっちへ来て」
僕は、隣にいる〇〇に手招きをする。
そうして、彼女が海面に顔を近づけた時…-。
〇〇「!!」
(柔らかい……それに)
(とっても、温かい)
〇〇から、唇をゆっくりと離す。
サラサ「……溶けちゃうって聞いてたんだ」
〇〇「え……?」
サラサ「人間とキスをすると、人魚は溶けてしまうって。 溶けなかったね」
(でも……)
(なんだか、溶けそうな気分)
胸の奥がぎゅっと締めつけられるような、心が溶けてしまいそうな、不思議な感覚……
(こんなの、知らなかった。だけど……)
(すごく、幸せな感じがする)
胸の中に芽生えた気持ちに突き動かされるように、僕は海の中を泳ぎ……
真っ赤な顔をする〇〇に、水しぶきを飛ばす。
〇〇「あ、サラサくん!」
水しぶきを浴びる〇〇が、楽しそうに笑う。
(僕も、すごく楽しい……)
(もっともっと、おまえと遊びたい)
サラサ「〇〇、一緒に泳ごうよ。 もう服もそんなに濡れてるし」
もっと近くで遊びたくて、彼女を海の中へと誘う。
けれど……
(あれ……? どうしたんだろう?)
〇〇が、なぜか自分の体を手で隠している。
サラサ「〇〇、何してるの?」
〇〇「え……そのっ、下着が透けちゃってるから……」
(下着?)
サラサ「……下着ってどれ?」
〇〇「あ……あんまり見ないで……」
僕が見つめると、〇〇は背中を向けてしまう。
(よくわからないけど……見られたくないのかな?)
(それなら……)
サラサ「ねぇ〇〇、一緒に泳ごう」
僕は何事もなかったように彼女に話しかける。
〇〇「でも私、泳ぎは得意じゃないし」
サラサ「僕がずっと〇〇の傍にいるよ」
そう言うと、彼女がゆっくりとこっちを向いて頷いてくれた。
(よかった、それじゃあ……)
〇〇「えっ!」
服のボタンを外してあげようとしたその時、〇〇が驚いたような声を上げた。
〇〇「ちょ、ちょっと待って……!」
サラサ「どうしたの?」
〇〇「どうしたのって……」
サラサ「……海に入る時は人間も裸になるんでしょ?」
(もしかして、違った……?)
尋ねると、〇〇が頬を赤らめながら首を振った。
〇〇「人間は裸じゃなくて、水着で泳ぐんだよ」
(水着? 裸じゃないの?)
サラサ「変なの……そうなんだ」
(一緒に遊びたかった、けど……)
(それが人間のルールなら、仕方ないか)
少し残念な気持ちはしたものの、僕は再び顔を上げる。
そうして今度また一緒に泳ごうと約束をした後、僕達はまたおしゃべりに花を咲かせた。
…
……
いつしか空も海も、暗い藍色に染まっている。
サラサ「もうこんな時間か……」
(帰りたくないな……)
そう思いながらも僕は波打ち際から海に飛び込み、深くへともぐる。
けれど……
(……やっぱり、まだ)
〇〇「!!」
(もう少しだけ、おまえの傍にいたい)
水面から顔を出した僕は、〇〇の両頬に手を添え……
〇〇「ん……っ」
昼間よりも、もっともっと深いキスをした。
(柔らかい。それに……)
(不思議……こんなにドキドキするなんて)
〇〇の体も、自分の体も、昼間とは比べものにならないぐらい熱を帯びている。
サラサ「ごめん。でもどうしても、もう一度〇〇とキスしたかったんだ」
驚いたような顔をしている彼女からそっと顔を離す。
サラサ「キスっていいね。すごくドキドキした。〇〇はキスするの好き?」
(僕とキスするの……好き?)
〇〇「えっ……」
サラサ「……人間は、大事な人にキスをするんだよね?」
〇〇「うん……」
じっと見つめると、〇〇の綺麗な瞳と目が合う。
サラサ「人魚はね、尾びれ同士を絡ませ合うのが愛情表現なんだ。 だけど……キスはそれよりもずっと、愛情が伝わる気がした」
(僕の愛情、全部おまえに伝えたい)
(だから……)
サラサ「またキスしてもいい?」
〇〇は、再び驚いたように目を見開くものの……
(あ……)
少しの後、小さく頷いてくれた。
サラサ「ありがとう。 僕の気持ち……全部伝わるといいな」
〇〇「サラサくん……」
月明りの下で、頬を赤く染めた彼女が微笑む。
そして……
サラサ「……」
僕達はどちらからともなく瞳を閉じた後、お互いの愛情を確かめ合うような、優しく深いキスを交わし合ったのだった…-。
おわり。