翌日…ー。
私はまた海岸を訪れていた。
(こうして毎日、サラサくんと会えたら幸せだな……)
そう感じながら、穏やかで美しい海を見つめる。
サラサくんのことを思いながら、いつもの場所へと足を運ぶと……
〇〇「あれ……?」
いつもは私より先に来ているサラサくんの姿が、今日はなかった。
(どうしたんだろう、何かあったのかな……)
不安に思いながら、深いブルーの海に目を凝らす。
すると……
〇〇「あ……」
サラサくんが煙めく水しぶきと共に、海の中から現れた。
水を滴らせるブルーの髪、太陽の光にきらきらと揺らめく金色の瞳……
(綺麗……)
もう何度も見た姿のはずなのに、私は思わず見惚れてしまった。
サラサ「……こっちへ来て」
サラサくんに手招きされて、私は波打ち際へと歩みを進める。
サラサ「もっと。 も、もっと……?」
そう言われて、しゃがみ込んでサラサくんに顔を近づけた時…ー。
〇〇「!!」
サラサくんの唇が、私の唇にそっと触れた。
(サラサくん……?)
唇が離れた後も、私は苑然と彼の瞳を見つめていた。
サラサ「……溶けちゃうって聞いてたんだ」
〇〇「え……?」
サラサ「人間とキスをすると、人魚は溶けてしまうって」 「溶けなかったね」
そう言うと、サラサくんは満足げに笑って、海の中を優雅に泳ぎまわる。
(そんな……本当に溶けちゃったら、どうする気だったんだろう)
真っ赤になった頬に手を当てていると、波打ち際にいた私に、サラサくんが近付いて、ぴしゃっと水しぶきを飛ばした。
〇〇「あ、サラサくん!」
ふふっと楽しそうに笑いながら、サラサくんはまた私に水をかけてくる。
子どものようにはしゃぎながら、波打ち際で遊んでいた、その時…ー。
サラサ「〇〇、一緒に泳ごうよ」
〇〇「えっ!」
サラサ「もう服もそんなに濡れてるし」
ふと自分の体を見ると、濡れた服が体に張り付いて下着が透けてしまっていた。
(嘘……恥ずかしい……!)
驚いて、思わず体を手で隠すと、サラサくんが不思議そうに私を見つめてきた。
サラサ「〇〇、なにしてるの?」
〇〇「え……そのっ、下着が透けちゃってるから……」
サラサ「……下着ってどれ?」
サラサくんが近付いて、私の体をじっと見つめる。
〇〇「あ……あんまり見ないで……」
私はおずおずと、サラサくんに背を向けた。
そんな私には構わず、サラサくんは楽しそうに話しかけてくる。
サラサ「ねぇ〇〇、一緒に泳ごう」
〇〇「でも私、泳ぎは得意じゃないし」
サラサ「僕がずっと〇〇のそばにいるよ」
その言葉がとても嬉しくて、私は再びサラサくんの方へと体を向けた。
私は覚悟を決めて小さく領いた、すると…ー。
〇〇「えっ!」
(サラサくん、何を……!)
サラサくんが私のブラウスに手を伸ばし、ボタンをひとつずつはずしていく。
〇〇「ちょ、ちょっと待って……!」
サラサ「どうしたの?」
サラサくんがきょとんとした顔で私を見つめる。
〇〇「どうしたのって……」
サラサ「……海に入るときは人間も裸になるんでしょ?」
〇〇「人間は裸じゃなくて、水着で泳ぐんだよ」
サラサ「変なの……そうなんだ」
サラサくんは、心から残念そうな顔をした。
(なんだかドキドキしっぱなしで、心臓がもたないよ……)
サラサ「じゃあ、今度一緒に泳ごう。 約東……」
〇〇「……うん」
サラサくんと約東を交わした後、私達はまたおしゃべりに興じた…ー。
…
……
いつしか空も海も、暗い藍色に染まっている。
サラサ「もうこんな時間か……」
そう言って、サラサくんは波打ち際から海へと身を投じる。
サラサ「また、明日」
〇〇「あ…ー」
挨拶をする間もなく、サラサくんは海の中へと潜ってしまう。
(行っちゃった……)
明日、また彼に会えるのに…ー。
なんだか寂しい気持ちが込み上げて、私は波打ち際から、彼が帰った海を覗き込んだ。
その時…ー。
〇〇「!!」
パシャリと音を立てて、サラサくんが再び姿を現した。
跳ねた水滴が、驚き戸惑う私の頬を掠める。
サラサ「……」
両手に手を添えられ、私の唇に触れたのは
〇〇「ん……っ」
昼間よりも、もっともっと深いキスだった。
(サラサくん……?)
サラサ「ごめん。でもどうしても、もう一度〇〇とキスしたかったんだ」
ゆっくりと唇を離して、サラサくんがすまなさそうに眉尻を下げる。
サラサ「キスっていいね。すごくドキドキした。〇〇はキスするの好き?」
〇〇「えっ……」
突然そう問われて、思わずサラサくんを見つめる。
サラサ「……人間は、大事な人にキスをするんだよね?」
〇〇「うん……」
顔はまだ触れそうなくらい近くて、鼓動が収まらない。
サラサ「人魚はね、尾びれ同士を絡ませ合うのが愛情表現なんだ。 だけど……キスはそれよりもずっと、 愛情が伝わる気がした。 またキスしてもいい?」
サラサくんの大きな瞳に捕らえられて、視線を逸らすことができない。
私が小さく頷くと、サラサくんはこの上なく嬉しそうに微笑んだのだった…ー。
おわり。