サラサ「それに、僕を助けてくれた〇〇の力にも興味をそそられた。 だから……皆からは反対されたけど……今日、〇〇に会いに来たんだ」
サラサさんの柔らかな微笑みが、私に向けられている…ー。
〇〇「サラサさんが、私に会いに……?」
サラサ「うん、〇〇に会いに」
はっきりと告げられた言葉に、胸の鼓動が速くなる。
〇〇「サラサさん……」
サラサ「さん、いらない。こんなに話をしてるんだし」
サラサさんが、少し不満げに口を尖らせた。
〇〇「あ……じゃあ、サラサくん?」
サラサ「くん……まあ、いいか」
少し考える素ぶりを見せた後、サラサくんはまた口を開いた。
サラサ「僕の母さんと姉さんも人間を嫌ってるんだ。 僕は二人から人間の怖さを聞いて育った。 だけど僕は、どうしてもすべての人間が悪いやつだとは思えないんだ」
サラサくんは、時々押し寄せる小さな波に、ひれをふわりと揺らしながら、自分の思いを話してくれる。
サラサ「人魚と人間は、体の一部が違うけれど、近い部分もあるはず。 いいやつと悪いやつがいるのは、きっとどちらの世界でも同じだ。 だから、すべてを否定してしまうのは、なんとなく悲しいことだと僕は思う」
〇〇「私もそう思います……けれど」
(それは、私が人間の立場だからそう思うだけかもしれない……)
〇〇「サラサくんは、人間のことが怖くないんですか?」
サラサ「うーん……まったく怖くないと言ったら嘘になるかな。 だからもちろん海上に行く時は注意してるよ。けど、 あの人間に触れた時は不思議と恐怖心がなかった」
〇〇「さっき話してた、船に乗っていた人?」
サラサくんは記憶をたどりながらその時の話をしてくれる。
サラサ「あの日、海の中から見上げると、なにか大きな塊が海の上にあって。 僕が水面から顔を出したとき……その塊が大きな船だとわかったんだ。 あまりの大きさに驚いて見ていたら、船の上にいた人間と目が合った」
〇〇「そうだったんですね……」
(悪い人ではなかったということかな。何もされなくてよかったけど……)
そんなことを考えていると、サラサくんにじっと見つめられていること気付いて、視線を戻す。
サラサ「その人、おかしいんだ。それからも僕に構ってきて。 困ったことはないか、とか、いじめられてないか、とか……なんだかうるさいんだよね」
〇〇「優しい方なんですね」
サラサ「優しい?……そうなのかな、そう言われてみればそうかも」
サラサくんは、その人のことを思い描いてか、クスリと笑みをこぼした。
そして…ー。
サラサ「〇〇と初めて会った時も、怖いとは思わなかったよ」
〇〇「良かった」
サラサ「え?」
〇〇「だからこうして会いにきてくれたんですよね。 良かったなって」
私の言葉を聞いて、サラサくんは困ったように笑った。
サラサ「ねえ……ちょっといい?」
そう言って、サラサくんが突然私の手に触れた。
美しくしなやかな彼の手が、私の手を包み込む…ー。
サラサ「……温かい」
(……ひんやりする)
触れられた手は冷たかったけれど……
私の頬は、ほんのりと火照って熱くなるのだった…-。