第5話 怖くない人間

サラサ「それに、僕を助けてくれた〇〇の力にも興味をそそられた。 だから……皆からは反対されたけど……今日、〇〇に会いに来たんだ」

サラサさんの柔らかな微笑みが、私に向けられている…ー。

〇〇「サラサさんが、私に会いに……?」

サラサ「うん、〇〇に会いに」

はっきりと告げられた言葉に、胸の鼓動が速くなる。

〇〇「サラサさん……」

サラサ「さん、いらない。こんなに話をしてるんだし」

サラサさんが、少し不満げに口を尖らせた。

〇〇「あ……じゃあ、サラサくん?」

サラサ「くん……まあ、いいか」

少し考える素ぶりを見せた後、サラサくんはまた口を開いた。

サラサ「僕の母さんと姉さんも人間を嫌ってるんだ。 僕は二人から人間の怖さを聞いて育った。 だけど僕は、どうしてもすべての人間が悪いやつだとは思えないんだ」

サラサくんは、時々押し寄せる小さな波に、ひれをふわりと揺らしながら、自分の思いを話してくれる。

サラサ「人魚と人間は、体の一部が違うけれど、近い部分もあるはず。 いいやつと悪いやつがいるのは、きっとどちらの世界でも同じだ。 だから、すべてを否定してしまうのは、なんとなく悲しいことだと僕は思う」

〇〇「私もそう思います……けれど」

(それは、私が人間の立場だからそう思うだけかもしれない……)

〇〇「サラサくんは、人間のことが怖くないんですか?」

サラサ「うーん……まったく怖くないと言ったら嘘になるかな。 だからもちろん海上に行く時は注意してるよ。けど、 あの人間に触れた時は不思議と恐怖心がなかった」

〇〇「さっき話してた、船に乗っていた人?」

サラサくんは記憶をたどりながらその時の話をしてくれる。

サラサ「あの日、海の中から見上げると、なにか大きな塊が海の上にあって。 僕が水面から顔を出したとき……その塊が大きな船だとわかったんだ。 あまりの大きさに驚いて見ていたら、船の上にいた人間と目が合った」

〇〇「そうだったんですね……」

(悪い人ではなかったということかな。何もされなくてよかったけど……)

そんなことを考えていると、サラサくんにじっと見つめられていること気付いて、視線を戻す。

サラサ「その人、おかしいんだ。それからも僕に構ってきて。 困ったことはないか、とか、いじめられてないか、とか……なんだかうるさいんだよね」

〇〇「優しい方なんですね」

サラサ「優しい?……そうなのかな、そう言われてみればそうかも」

サラサくんは、その人のことを思い描いてか、クスリと笑みをこぼした。

そして…ー。

サラサ「〇〇と初めて会った時も、怖いとは思わなかったよ」

〇〇「良かった」

サラサ「え?」

〇〇「だからこうして会いにきてくれたんですよね。 良かったなって」

私の言葉を聞いて、サラサくんは困ったように笑った。

サラサ「ねえ……ちょっといい?」

そう言って、サラサくんが突然私の手に触れた。

美しくしなやかな彼の手が、私の手を包み込む…ー。

サラサ「……温かい」

(……ひんやりする)

触れられた手は冷たかったけれど……

私の頬は、ほんのりと火照って熱くなるのだった…-。

 

 

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