寄せては返す波の音が、耳に心地よく響いてくる…ー。
再会することができた私とサラサさんは、海辺でふたり言葉数少なく会話を続けていた。
サラサ「じゃあ、〇〇は別に僕の姿が珍しくて会いたいって思ってたわけじゃないの?」
〇〇「えっと……はいって答えると、嘘になっちやいますけど。 確かに人魚なんて初めて見たので驚きました……でも、それだけじゃなくて、何と言ったらいいか……」
彼にこんなにも会いたかった理由を上手く言葉にできず、言い淀んでしまう。
サラサ「……」
サラサさんの目が、哀しげに伏せられた。
〇〇「サラサさん……?」
サラサ「僕の国の人達は皆、人間は悪いやつだと思っているんだ。 僕もずっと……そう言われて育って」
〇〇「……どうしてですか?」
尋ねると、サラサさんの表情がますます曇ってしまった。
(言いにくいことを聞いちゃったかな……)
不安に思っていると、サラサさんが静かに語り始めてくれた。
サラサ「……遠い昔は、人間と恋に落ちる人魚も珍しくなかったんだ。 けれど、人間はほとんど人魚を裏切って、最後には他の人間と結婚してしまう。 それどころか、見世物として人魚を売り渡すやつらも多くて……。 だから、いつからか僕達の国……人魚の国の皆は人間を忌み嫌っている」
〇〇「……」
サラサさんから語られる話に、私は言葉を失ってしまう。
サラサ「今も、僕達は常に人間に狙われているんだ」
〇〇「今も……?」
サラサさんは領いて、瞳に悲しみの色を渉ませた。
サラサ「僕達の姿が珍しいから。 捕まったらひどい目に合うから、人間には近付いちやいけないってずっと言われてきた……」
〇〇「そうだったんですか……」
人魚達は人間との間に厚い壁を感じているということを知り、とても悲しい気持ちになる。
〇〇「私は、珍しいというより、サラサさんのことを美しいと思います」
サラサ「僕が?」
〇〇「キラキラ輝くその鱗が綺麗だなって」
サラサ「普通じゃないかな?僕は人間の肌も美しいと思うけど……」
サラサさんの端正な顔が、私の顔に近づけられた。
(ち、近い……!)
〇〇「……あって当たり前だと思っていると、その魅力に気づかないものなのかもしれませんね」
思わず顔を逸らして、私は恥ずかしさをごまかすように慌てて言葉を紡いだ。
サラサ「……。 でも、僕は人間に興味があるんだ」
〇〇「え…ー」
サラサ「よく人間達を見ようと、水面に顔を出すんだけど……一度、船に乗った人間に会ったことがあって。 なぜだかその時、悪い気はしなかった……」
サラサさんは微笑んで、私の目を見つめた。
サラサ「それに、僕を助けてくれた〇〇の力にも興味をそそられた。 だから……皆からは反対されたけど……今日、〇〇に会いに来たんだ」
(綺麗……)
細められた彼の瞳の中で、海のきらめきを閉じ込めたような光が揺れたのだった…ー。