私はどうしても、もう一度サラサさんに会いたくて、また海辺を訪れていた。
〇〇「今日は会えるかな……」
コバルトブルーの海を眺めながら、サラサさんの姿を探す。
今日も波は穏やかで、砂粒が太陽の光を受けてキラキラと目を射る。
(この間は会えなかったけど……)
何時間もこの海岸でサラサさんを待っていたけど、結局あの日は会うことができなかった。
あの日感じた寂しさがまたよみがえってきて、ふとため息がもれる。
(だけどまたきっと、サラサさんはこの海岸に現れる)
そんな気がして、どこまでも続く青い海に目を凝らす。
しかし……
しばらくたってもサラサさんは現れず、静かな海岸に波の音だけが響き渡った。
〇〇「今日も……会えないのかな」
不安な気持ちが胸をかすめて、波打ち際まで歩いて行くと…ー。
〇〇「冷た……!」
押し寄せた小さな波が足にかかり、驚きに肩が跳ね上がった、その時…ー。
??「……おい」
(え……?)
不意に声が聞こえた気がして振り向くと、海の中からその声の主が私を見ていた。
〇〇「サラサ……さん?」
待ち望んでいたその姿を見た途端、嬉しさが込み上げる。
サラサ「……」
サラサさんは、恐る恐るといった様子で波打ち際まで来てくれた。
(また、会えた……)
サラサさんが波打ち際で両手をつき上体を起こす。
私も近くの岩場に腰かけ、目線を同じ位置に合わせる。
サラサ「この間は……すぐにいなくなっちやってごめん」
〇〇「いいえ、また会えて嬉しいです」
サラサ「……嬉しい?」
〇〇「はい、嬉しいです」
サラサ「……」
〇〇「……」
(あれ……何か変なこと言ったかな?)
私達はお互い無言のまま、しばらく見つめ合っていた。
大きなその瞳に吸い込まれそうになり、はっと我に返って会話の糸口を探していると…ー。
サラサ「おまえ……トロイメアのお姫様だよね?人間?」
サラサくんが、ぽつりとつぶやいた。
〇〇「え…ー」
突然の質問に驚きながらも、私は小さくと領いた。
サラサ「……」
そしてまた、沈黙が訪れてしまう。
〇〇「あの…ー」
何とか会話を続けようとすると…ー。
サラサ「僕、人間と話すの……お前が二人目なんだ」
〇〇「二人目?」
サラサさんは、小さく首を縦に振る。
サラサ「名前は?」
〇〇「〇〇です」
サラサ「いい名前だな……僕の次くらいに」
(あ、笑った……!)
初めて見るサラサさんの笑顔に目を奪われていると、彼はさらに質問を続ける。
サラサ「〇〇は……どうしてここに?」
(どうしよう……ずっと待ってたなんて言ったら、変に思われちゃうかも)
〇〇「……散歩をしていました」
サラサ「散歩?」
私の言葉を聞いて、サラサさんが眉をひそめた。
〇〇「あ……あの、ごめんなさい。 それは嘘で、ここにいればまたサラサさんに会えると思って……」
サラサ「僕に……会いに?」
〇〇「はい……」
サラサさんの金色の瞳にじっと見つめられて、思わず目を逸らした。
サラサ「……変なやつ。 僕のこと全然知らないのに、ずっと待ってたなんて」
〇〇「え…ー」
(どうして、私が待ってたことを知って……)
サラサ「あ、いや……何でもない」
ふいと、サラサさんは私から顔を背けた。
その仕草も、やっぱりとても結麗で……
(もっと、彼のことが知りたい……)
太陽の光に照らされて、サラサさんの髪が水面のように美しく輝く。
そんな彼の姿に、私はすっかり見惚れてしまっていた…ー。