第3話 二人目の人間

私はどうしても、もう一度サラサさんに会いたくて、また海辺を訪れていた。

〇〇「今日は会えるかな……」

コバルトブルーの海を眺めながら、サラサさんの姿を探す。

今日も波は穏やかで、砂粒が太陽の光を受けてキラキラと目を射る。

(この間は会えなかったけど……)

何時間もこの海岸でサラサさんを待っていたけど、結局あの日は会うことができなかった。

あの日感じた寂しさがまたよみがえってきて、ふとため息がもれる。

(だけどまたきっと、サラサさんはこの海岸に現れる)

そんな気がして、どこまでも続く青い海に目を凝らす。

しかし……

しばらくたってもサラサさんは現れず、静かな海岸に波の音だけが響き渡った。

〇〇「今日も……会えないのかな」

不安な気持ちが胸をかすめて、波打ち際まで歩いて行くと…ー。

〇〇「冷た……!」

押し寄せた小さな波が足にかかり、驚きに肩が跳ね上がった、その時…ー。

??「……おい」

(え……?)

不意に声が聞こえた気がして振り向くと、海の中からその声の主が私を見ていた。

〇〇「サラサ……さん?」

待ち望んでいたその姿を見た途端、嬉しさが込み上げる。

サラサ「……」

サラサさんは、恐る恐るといった様子で波打ち際まで来てくれた。

(また、会えた……)

サラサさんが波打ち際で両手をつき上体を起こす。

私も近くの岩場に腰かけ、目線を同じ位置に合わせる。

サラサ「この間は……すぐにいなくなっちやってごめん」

〇〇「いいえ、また会えて嬉しいです」

サラサ「……嬉しい?」

〇〇「はい、嬉しいです」

サラサ「……」

〇〇「……」

(あれ……何か変なこと言ったかな?)

私達はお互い無言のまま、しばらく見つめ合っていた。

大きなその瞳に吸い込まれそうになり、はっと我に返って会話の糸口を探していると…ー。

サラサ「おまえ……トロイメアのお姫様だよね?人間?」

サラサくんが、ぽつりとつぶやいた。

〇〇「え…ー」

突然の質問に驚きながらも、私は小さくと領いた。

サラサ「……」

そしてまた、沈黙が訪れてしまう。

〇〇「あの…ー」

何とか会話を続けようとすると…ー。

サラサ「僕、人間と話すの……お前が二人目なんだ」

〇〇「二人目?」

サラサさんは、小さく首を縦に振る。

サラサ「名前は?」

〇〇「〇〇です」

サラサ「いい名前だな……僕の次くらいに」

(あ、笑った……!)

初めて見るサラサさんの笑顔に目を奪われていると、彼はさらに質問を続ける。

サラサ「〇〇は……どうしてここに?」

(どうしよう……ずっと待ってたなんて言ったら、変に思われちゃうかも)

〇〇「……散歩をしていました」

サラサ「散歩?」

私の言葉を聞いて、サラサさんが眉をひそめた。

〇〇「あ……あの、ごめんなさい。 それは嘘で、ここにいればまたサラサさんに会えると思って……」

サラサ「僕に……会いに?」

〇〇「はい……」

サラサさんの金色の瞳にじっと見つめられて、思わず目を逸らした。

サラサ「……変なやつ。 僕のこと全然知らないのに、ずっと待ってたなんて」

〇〇「え…ー」

(どうして、私が待ってたことを知って……)

サラサ「あ、いや……何でもない」

ふいと、サラサさんは私から顔を背けた。

その仕草も、やっぱりとても結麗で……

(もっと、彼のことが知りたい……)

太陽の光に照らされて、サラサさんの髪が水面のように美しく輝く。

そんな彼の姿に、私はすっかり見惚れてしまっていた…ー。

 

 

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