目覚めさせた人魚のような姿をした王子様は、その言葉を残してすぐに海へと潜ってしまった…-。
私はまた、あの海岸に来ていた。
コバルトブルーに輝く海を見ながら、真っ白でさらさらの砂浜に立つ。
(サラサさん……人魚の王子様だよね……?)
美しい鱗で覆われた尾びれ、海の色と似たブルーの髪、そしてあの澄んだ瞳が忘れられなくて……
(もう一度会ってみたい……)
そう心の中でつぶやくと、出会った時のことを思い出す
ー----
??「……僕の名前は、サラサ。 助けてくれてありがとう」
ー----
大きな瞳を真っ直ぐ見つめると、すぐに視線を逸らされてしまった。
〇〇「サラサ……」
小さくつぶやいた言葉は、潮のにおいを含んだそよ風に流されていく。
(……帰ろうかな)
海へ来てから、かなりの時間が過ぎたような気がする。
誰もいない海岸で、一人海を眺めていると、心細ささえ感じ始めた。
(でも、もう少しだけ……)
だけど、淡い期待を捨てきることができずに、また海を見つめる。
(どうしてこんなに気になるんだろう……)
昨日、私を見たときのサラサさんの怯えるような瞳が忘れられない。
その理由が知りたいのか、純粋に人魚という種族に興味を持っているだけなのか……
自分でもその答えがわからないまま、私は海辺でひとり彼を待った…ー。
…
……
それからさらに時間が経過し、太陽の柔らかな赤みが、空にタ焼けのグラデーションを作り出した。
タ日が水面に金色の影を落とし、キラキラと輝く光景は美しいけれど、どこか物悲しさを感じる。
〇〇「さすがに、そう簡単には会えないかな……」
一人ぼっちの海岸で静かにつぶやくと、その声は波の音にかき消される。
その時、冷たい海風が髪をなぶり、思わず肩をすくめる。
(だいぶ冷えてきた……今日は諦めよう)
落胆しながら小さなため息をついて、私は立ち上がり海岸を後にするのだった…ー。
…
――〇〇が海岸を後にすると、ちゃぷんと音をたて、海からサラサが顔を出す。
サラサ「……。 僕に……会いたい?」
誰もいない海岸で、サラサは静かにつぶやいた。
サラサ「……声をかけた方がよかった? 人間の……お姫様」
小さくなっていく〇〇の後ろ姿を、サラサはじっと見つめていた。
しかし、〇〇はそれに気付かないまま、海岸から去っていくのだった…-。