茜色の空が闇に染まり、家々に明かりが灯る頃…―。
エドモント「はぁ、はぁ……!」
俺は数名の兵を引き連れて、忽然と姿を消してしまった〇〇を捜し求めスラム街を全力で疾走していた。
(……!! あれは……)
視界の端に映った怪しげな小屋へと駆け寄り、ドアを蹴破る。
兵士「……どうやら無人のようですね」
エドモント「ああ、そうみたいだな……」
(〇〇、君はいったいどこに……?)
街中を手当たり次第に捜索しているものの、一向に彼女の姿は見つからない。
俺が焦りと苛立ちを抑えながら、乱れた呼吸を整えていると…―。
兵士「エドモント様。やはりここは我々にお任せいただいて、城へお戻りになられた方が……」
俺の様子を気遣いながら、兵士がおずおずと声をかけてくる。
エドモント「……いや、大丈夫だ。心配をかけてすまない」
兵士「しかし……」
ただでさえ広い街中を走り回っているところに、過去誘拐されてしまった時のトラウマが加わり……
俺は誰の目にも明らかなほど疲弊していた。
(……俺だってできることなら、もう二度とここには関わりたくなかった)
(それに、もしかしたら誘拐というのは俺達の思い込みで)
(彼女はどこか安全なところで過ごしているのかもしれない)
(だけど……)
先ほどからどうしようもなく騒ぐ胸を押さえながら、兵士達の方へと顔を向ける。
そうして、俺は…―。
エドモント「……行こう」
短くそう言った後、まだ整いきっていない呼吸に構うことなく踵を返して走り始めた。
…
……
スラム街で〇〇を捜し始めてから、数十分後…―。
エドモント「はぁ、はぁ……」
兵士「っ……」
街中を走り回ったものの、未だ〇〇を見つけられない俺達は、路地裏で、限界まで上がりきった呼吸を整えていた。
(本当は、休んでる場合じゃないのに)
(〇〇、今頃君は…―)
その瞬間、自分が誘拐された時のことを思い出し、体を震えが駆け抜ける。
エドモント「……っ!!」
恐怖と苛立ちから、俺は思わず手近な壁を殴りつけた。
(早く見つけなければ……)
壁に打ちつけた拳を、うなだれたままさらにきつく握る。
すると、その時…―。
??「……放…………さい…………」
エドモント「!? 〇〇っ!?」
微かに聞こえた声に、勢いよく顔を上げる。
兵士「エドモント様……?」
俺の様子を訝しげに見つめている兵士達の視線に構うことなく、声がした方へと歩みを進めると……
そこには他の建物の陰に隠れるようにたたずむ一軒の小屋があった。
エドモント「ここか!?」
激しい音を立てて扉を打ち破る。
すると、小屋の中には……
〇〇「エ、エドモントさん……!」
男達に担ぎ上げられ、恐怖に震える〇〇の姿があった。
エドモント「貴様ら……何をしているっ!!?」
スラムの男1「ま、まずいぞ……」
男達がこちらを見ながら、じり、と後ずさる。
そして次の瞬間…―。
スラムの男2「ちっ……!」
〇〇「……っ!」
担ぎ上げられていた彼女が、床に投げ出されるように解放された。
エドモント「〇〇!」
スラムの男2「どけえっ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げようとする男達を、兵士が次々と捕まえる。
エドモント「逃がすはずがないだろう!?」
俺も加勢し、逃げる男の足を払い腕をねじり上げた。
スラムの男2「ぎゃあああ!!」
(許さない……)
このまま、腕をねじ切ってやりたいという衝動に駆られた時、〇〇と目が合った。
(あ……)
彼女の怯えたような、戸惑うような眼差しが、俺に向けられていた。
(……ごめん)
どんな顔をしていいかわからず、俺は努めて平静を装った。
どれくらいの時間、そうして見つめ合っていたかはわからない……
エドモント「周りにいる者も全員捕らえろ。絶対に逃がすな」
兵士「はっ」
怒りを噛み殺して兵士に命じながら、俺は彼女へ手を伸ばす。
エドモント「〇〇……」
そうして未だ恐怖に震える彼女をいたわるように、手首の縄を解いた。
エドモント「すまない。遅くなってしまって」
皆が小屋から出て行くのと同時に、彼女の体を抱き上げる。
すると……
〇〇「エドモントさん……」
彼女が、俺の首に抱きついた。
(〇〇……)
すがるような彼女の仕草に、胸が締めつけられる。
エドモント「君がいなくなって、街中を捜し回ったよ。 怪我は? 何をされた? よく顔を見せて」
俺がつい矢継ぎ早に問うと、〇〇は困惑したように顔を上げ……
あまりに間近にある大切な人の顔を、俺は熱を帯びた瞳で見つめた。
〇〇「私……」
エドモント「震えているね。可哀相に……」
目の前の彼女へと、さらに顔を近づける。
エドモント「ごめんね……」
(こんなにも怖い思いをさせてしまって)
(本当にごめん……)
彼女をこれ以上怖がらせてしまわないよう、そっと額に口づけた後……
エドモント「こんな場所は、一刻も早く立ち去ろう」
吐き捨てるようにそう言いながらも、俺の中には一つの決意が芽生えていた。
(こんなことは、二度とあってはならない)
(だから……俺は……)
彼女を抱く力を強くして、俺は城へと歩き出した…―。
おわり。