その後…―。
私は、スラムのどこかの小屋へ押し込まれてしまった。
(エドモントさんに、伝えないと)
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エドモント「元はと言えば、俺達王族があそこをあんな風にしてしまったのに…―」
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(王族が身勝手だって、あんなに責任を感じているのに……このままだと)
どうにかして逃げられないかと辺りを見渡すものの、扉にはしっかりと施錠がされ、後ろ手に縄で縛られてしまっている。
何か方法は、と思案していると……
スラムの男1「へっへ。本当だ、確かに綺麗な娘だな」
○○「……!」
数人の男達が、わらわらと小屋の中に入ってきた。
ぞくりと嫌な予感に体がふるえ、背筋が冷たくなる。
スラムの男2「親切な野郎がいてさ、ここに綺麗な女がいるって教えてくれてよ。売り飛ばせば、いい金になるってな」
(い、嫌……どういうことなの?)
恐怖でのどの奥まで凍りついてしまったかのように、上手く声が出せずにいると…―。
○○「……っ!」
体を、男に軽々と担ぎ上げられてしまう。
○○「は、放してください……っ!」
(怖い……私、どうなってしまうの!?)
その時…―。
??「ここか!?」
激しい音を立てて、扉が打ち破られた。
怖くて閉じていたまぶたを、ハッと開くと……
○○「エ、エドモントさん……!」
エドモント「貴様ら……何をしているっ!!?」
これまでに聞いたことのないような怒声を、エドモントさんは上げた。
数名の兵を従えたエドモントさんの瞳が、怒りに燃えている。
スラムの男1「ま、まずいぞ……」
じり、と男達が動きをみせる。
スラムの男2「ちっ……!」
○○「……っ!」
担ぎ上げられていた私は、床に投げ出されるように解放され、激しく体を打ちつけた。
エドモント「○○!」
スラムの男2「どけえっ!」
それからすぐに、蜘蛛の子を散らすように逃げかけるけれど、次々と兵士に捕まっていく。
エドモント「逃がすはずがないだろう!?」
エドモントさんも加勢し、逃げる男の足を払い腕をねじり上げた。
スラムの男2「ぎゃあああ!!」
痛みに悶える男を見ても、眉一つ動かさず、エドモントさんは私を見ていた。
その眼差しに、背筋に何か冷たいものが走る。
(でも、さっきまでの恐怖とは違う気がする……)
美しく獰猛な生き物に、魅入られてしまったような不思議な感覚……。
言い表しようのない昂ぶりが、胸の中を占めていく。
エドモント「周りにいる者も全員捕らえろ。絶対に逃がすな」
兵士「はっ」
エドモントさんが、低く怒りを噛み殺したような声で兵士に命じながら私へ手を伸ばす。
エドモント「○○……」
いたわるように、彼は慎重に私の手首の縄をほどいてくれた。
エドモント「すまない。遅くなってしまって」
皆が小屋から出て行くのと同時に、私の体がエドモントさんに抱き上げられる。
○○「エドモントさん……」
抱き上げられたまま、ひしと彼の首に抱きつく。
安心したせいか、思わず涙が滲みそうになり、慌てて耐えた。
エドモント「君がいなくなって、街中を捜し回ったよ。怪我は?何をされた?よく顔を見せて」
矢継ぎ早に問われ、何から答えればいいのか迷ったまま、顔を上げる。
あまりに間近にある彼の顔に、どきりと胸が鳴った。
○○「私……」
エドモント「震えているね。可哀想に……」
先ほどまでの怒りに満ちた顔とは、また違った熱を帯びた瞳……。
エドモントさんは切なげな顔を、さらに私に近づける。
エドモント「ごめんね……」
そっと額に口づけた後、すぐにその場を後にした。
エドモント「こんな場所は、一刻も早く立ち去ろう」
そう、ひどく忌々しげに言いながら…―。