紅茶の国・ダジルベルク 蒼の月…ー。
澄んだ空高くに、太陽が昇る頃……
エドモント王子に招待された私は、城に向かい、絵画のような街並の中を歩いていた。
(ティーパーティのお土産は、このクッキーで大丈夫だよね)
クッキーを手に、洋菓子屋さんを出た瞬間、服の裾をくいと引かれた。
男の子「ねえ、おねえちゃん、クッキーちょうだい!」
みすぼらしい恰好をした男の子が、私を見上げて笑顔を向けている。
◯◯「えっと……」
男の子「ね、お願い!」
◯◯「う、うん。これでいいかな?」
無邪気にお願いをされて、断りきれずに差し出すと…ー。
男の子「わぁ……ありがとうっ! これ、お礼にあげるね。バイバイ!!」
男の子は心底嬉しそうな顔をしてクッキーを受け取り、白い花を一輪、手渡してくれた。
◯◯「可愛い花……」
(あの男の子……誰だったんだろう)
少し気になりつつも、クッキーを買い直し、城へと向かうことにした。
…
……
城へ到着すると、執事さんにパーティーホールへと案内された。
城の中も、まるで絵画の中のように豪奢な造りで、感嘆のため息がこぼれる。
(いい香りがする……マスカット、かな?)
素敵な城と、芳醇な香りにうっとりしていると…ー。
エドモント「ようこそ、◯◯」
優しく包み込むような笑みを浮かべて、エドモントさんが姿を現した。
私を見て、流れるような所作でお辞儀をする。
(綺麗な人……)
思わず見とれてしまいそうなほど洗練された仕草に、しばし時を忘れそうになる。
エドモント「さあ、こちらへ」
ごく自然な動きで手を差し出され、うながされるままに彼の手を取った。
◯◯「あ……」
私の手を包み込んでくれる彼の手は、その笑顔と同じくとても優しく感じられた。
◯◯「あ、そうでした。クッキーをお持ちしたので、よろしければ」
エドモント「わざわざ持ってきてくれたの? ありがとう。 美味しそうなクッキーだね」
◯◯「ティーパーティーだとお聞きしたので」
エドモント「そんな気を使わなくていいのに。じゃあ、一緒にいただこう」
エドモントさんが、準備をさせるためかクッキーを執事さんに手渡した。
エドモント「あれ? その花は……?」
◯◯「あ、これはお店の前で……」
エドモント「……もしかして、市街地に寄ったの?」
突然、ふんわりとした笑みが彼の顔から消えて、わずかに表情が曇る。
(どうしたのかな?)
◯◯「は、はい。…..お花を、街の男の子にもらったんです」
エドモント「そう……貸して」
◯◯「あ……」
エドモントさんは、私の手から花を抜き取ってしまうと、悲しそうな顔をして、テーブルの隅に置いてしまった。
(どうして? 急に笑顔も消えて……)
彼の瞳は何かに惑うように、どこか悲しく揺れていた…ー。