あの日、店に戻るなり帽子屋さんは何かに気づいて声を上げた。
マッドハッター「・・・・そうです! 私はなんて愚かなことを。 クリスマスに仕立てるべきドレスなど、このワンダーメアで見つかるわけがなかったのです!」
(帽子屋さん、あんなこと言ってたけど・・・・どうするんだろう?)
数日後、彼から招待状が届き、私はその書状にあった場所へと向かった。
そこは数日前に訪れた彼の店の屋上にある庭園だった。
けれど・・・・
(すごい・・・・!)
相変わらず寒さを感じない庭は、クリスマスの装いそのものだった。
オレンジ色のロウソクに照らされた庭の中央にはクリスマスツリーが、
そしてテーブルの上には、見上げるほどに大きいクリスマスケーキや、グラスタワーが飾られている。
マッドハッター「ようこそ、私のクリスマスパーティへ!」
○○「帽子屋さん、これは!?」
数日前に訪れた時とは見違えるような場所に様変わりした庭を見て、私は目を丸くする。
マッドハッター「ふふ・・・・素敵でしょう? アリスから聞いた話を元に少し庭をアレンジしてみたのです」
○○「・・・・びっくりしました」
私の反応を見て、帽子屋さんは嬉しそうに瞳を細めた。
マッドハッター「どうぞこちらへ、お嬢さん?」
優美に笑う彼に手を引かれて、私の胸が大きく高鳴る。
マッドハッター「まずは私からのプレゼントを受け取ってくださいますか?」
彼から渡された包みを開くと、それはサンタクロースの衣装を模した真っ赤なスカートと帽子だった。
所々真っ白いファーに飾られているのがいかにもサンタらしい。
○○「これが・・・・帽子屋さんの考えていたクリスマスに相応しいドレス?」
マッドハッター「ええ、クリスマスと言えば、やはりこのドレスが一番でしょう? クリスマスの風習のないワンダーメアでは、そもそも見つけられなくて当然だったのです」
彼は金色の前髪を指先で梳いて、得意げに微笑む。
マッドハッター「さあ、早速始めましょう」
背が軽く押され、帽子屋さんに着替えるように促される。
○○「あ、あの・・・・」
いつになく楽しそうな彼の様子に抗うことはできず、私はドレスと帽子を身に着けると、彼は満足そうな顔で頷いた。
マッドハッター「これで正しいクリスマスが行えますね」
その瞬間、ドレスを纏った私の体が彼に抱き寄せられた。
○○「・・・・っ!」
謎めいた微笑みを浮かべる彼の顔が、私のすぐ近くにある・・・・
マッドハッター「どうやら私のお嬢さんは素敵なサンタでもあるようですね?」
○○「そうでしょうか? あの、私まだ頭がついてこなくて・・・・」
マッドハッター「おや、どうして?」
○○「帽子屋さんの問いかけはいつもよくわからないし、このドレスも・・・・帽子屋さんは、いったい私をどうしたいんですか?」
そう問いかけると、彼は謎めいた微笑を浮かべて、私の頬を長い指先で柔らかく撫でたのだった・・・・ー。