帽子を仕立ててもらいながらも、気になるのは彼の言葉のこと…ー。
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マッドハッター「○○嬢…私の真意のヒントは、すでに君に伝えているのですが…。 本当に気づいておられない?」
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ただ私は彼の瞳に混ざる切なそうな色に胸を痛めるだけ…
けれど口をつぐんでも彼の指先は止まることを知らず、
しばらくするとドレスのイメージにぴったりな美しい帽子が仕上がった。
マッドハッター「さあ、お嬢さん、それでは私のクリスマスパーティにご招待しましょう」
○○「え、パーティって…」
マッドハッター「…はい、君のためだけに私が用意しました。開催日は本日です」
彼は私の手を取ると、先日訪れた空中庭園へと私をエスコートするのだった。
帽子屋さんの空中庭園は、昼に来た時とは打って変わって、幻想的な夜の雰囲気に包まれていた。
しおらしく頭を垂れた花々をイルミネーションの光が優しく照らし出す。
けれど…ー。
○○「やっぱりここだけ、寒くない…?」
空を見上げれば確かに雪が降っているのに、まるで寒さを感じない。
辺りを見回しながら彼も共に進むと、庭園の中心には上品なクリスマスパーティの準備がなされていた。
○○「素敵…」
マッドハッター「お嬢さん、君はどうぞこちらの席に」
帽子屋さんが引いてくれた椅子に腰かけると、彼は私の向かいに座る。
目の前には洗練されたケーキやご馳走の他にも、先日買った紅茶が背の高いグラスに注がれていた。
マッドハッター「では、二人でディナーを…」
帽子屋さんは紅茶の注がれたグラスを傾ける。
私もそれに合わせて同じようにグラスを傾けると、澄んだガラスの音がして、琥珀色の液体の中で気泡が弾けた。
○○「っ、これって…スパークリングティー?」
口に含むなりマスカテルフレーバーの香りと爽やかな炭酸が広がる。
マッドハッター「このような楽しみ方もなかなか洒落てるでしょう?」
大人っぽく笑って彼が紅茶の入ったグラスを揺らす。
○○「でも…私、意外でした。パーティというから、もっと大勢の方が呼ばれる本格的なものかと…」
マッドハッター「…まさか! 君とのひと時をわざわざ邪魔されるようなことをしてどうするのです? どうやらお嬢さんは、まだ私の真意をわかっていないようですね?」
彼はやはり寂しそうに言って、私を深いグリーンの目で見つめる。
マッドハッター「教えて差し上げてもよいですが、ご自身で見つけられないのならば代償を一ついただきましょうか?」
○○「…それは私に払えるものでしょうか?」
マッドハッター「もちろん」
そう言って帽子屋さんは妖しく微笑む。
マッドハッター「私は、○○嬢からのキスをいただければと」
○○「キス!?」
まるで冗談のような言葉に声を大きくすると彼は声を出して笑った。
マッドハッター「あいかわらず初心な方だ…!」
流し目をこちらに送って彼は静かに私に近づいた。
マッドハッター「どうぞ、お嬢さん?」
○○「は、はい…」
心臓が高鳴り始める中、石膏像のような整った彼の頬に口づける。
マッドハッター「奥ゆかしい方だ。唇にしてくださっても構わなかったのですが?」
○○「…っ!」
かっと頬に熱を集めると、彼は私の耳元に唇を寄せた。
マッドハッター「そんな君だから、私は愛おしく思ってしまうのですよ…?」
甘く囁かれてさらに頭が熱にのぼせてしまう。
彼はそんな私の様子をからかうように、自らの腕に抱き寄せると…ー。
紅茶の香りのするキスを私の唇へ落とした。
(甘い…)
そのままキスは続き、心は彼の手で蕩けていく…
結局彼の真意は明かされないまま、私は彼の腕の中で夢心地に浸るのだった…ー。
おわり。