白く染まるマッドネスの街で・・・・ー。
私は何故いつも不思議な問いかけをするのかと彼に聞いた。
○○「教えてはもらえないのですか?」
マッドハッター「・・・・」
もう一度問えば、彼の緑色の瞳が私を静かに見つめた。
○○「帽子屋さん?」
彼は視線を伏せながら小さく言葉を紡ぐ。
マッドハッター「その理由は・・・・私としては君自身に見つけてもらいたいのですが」
(私が・・・・どうやって?)
考えてみても、彼の問いかけから意味を見いだせない。
○○「・・・・わからないです」
彼は一瞬だけ寂しそうな顔をして、視線を地面から大通りに移した。
マッドハッター「さて、パーティをするならば極上のスパークリングワインも手に入れなければ」
話題を変えた彼は、再び私を促すように歩き始める。
(何を・・・・考えているんだろう)
時折、帽子屋さんがどこか遠くに思いを馳せるように空を仰ぎ見る。
そんな彼の横顔に、私はどうしようもなく惹きつけられてしまっていた・・・・ー。
けれど、次に彼が私を連れてきたのは・・・・ー。
(紅茶専門店? ワインを買うつもりだったんじゃ・・・・)
マッドハッター「店主、今年の満月の夜に収穫したダジルベルクのセカンドフラッシュを」
彼が当然のように注文をすると、しばらくしてティーポットとカップがカウンターに運ばれてきた。
マッドハッター「この茶葉は紅茶の国・ダジルベルクでもまたとない一品なのです。 なんでもその芳醇な香りはスパークリングワインの最高峰として知られるものにも劣らないとか・・・・」
やけに高く掲げたポットから、ティーカップに紅茶を注いで彼が言う。
マッドハッター「お嬢さんも試してみては?」
○○「はい」
カップを私に手渡し、彼は同じカウンターに並べられた銀の皿から紅茶のチップを指先で摘まみ取る。
マッドハッター「そういえば紅茶の葉を茂らす茶の木にも、実はしっかりと花言葉があるのですよ・・・・知っていましたか?」
○○「え・・・・?」
先ほど茶葉に触れていた指先で、彼は私の顎を自分の方へ振り向かせた。
マスカテルフレーバーと言われる心地よい香りが私の鼻孔をくすぐった。
○○「いい香り・・・・」
マッドハッター「ええ、本当に・・・・香りと言えば、先日こんなこともありましたね。 私の店にあるご婦人が帽子を仕立てに来たのですけど・・・・。 傍に近寄った時に花の匂いがする帽子をと頼まれまして」
○○「においってどんな花のですか?」
マッドハッター「その時は甘いミモザの香りを生地に含ませたかと」
○○「花の香り・・・・あ、そういえばさっきの茶葉の木の花言葉は?」
マッドハッター「おや、憶えてらっしゃった?」
彼は意外そうにため息を吐き、私から視線を外す。
言外に上手くはぐらかしたのに、と付け加えるような言い方に、答えがひどく気になってしまう。
(でもこの答えも・・・・ただ聞くだけじゃ教えてくれないのかな)
彼は試飲した紅茶を購入すると店を出て、
その後も何軒かの店に寄って私のためのドレスを探してくれた。
しかし彼の見立てに適うドレスはやっぱり見つからなくて・・・・
夕方には、彼の帽子屋へと戻ってきたのだった・・・・ー。