雪がはらはらと舞う中、人々はどこか急ぎ足で街を行き交っている・・・・ー。
そんなマッドネスを回り、その後も帽子屋さんは私に様々なドレスを見立ててくれた。
しかし一向に彼の納得するものは見つからない。
マッドハッター「そういえば、クリスマスをイメージして君に帽子を仕立てるのなら、何の飾りにしましょう? 石か、それとも花か・・・・どうでしょう?」
○○「花でしょうか?」
マッドハッター「なるほど、しかし答えは君次第です」
どこか楽しそうに、帽子屋さんはハットを目深に被り直した。
マッドハッター「片方だけではクリスマスカラーにはなりませんから」
そんなことを話しながら、何軒目かの店を出た時だった。
○○「あれは?」
大通りの脇で小さなワゴンから湯気が上がっているのが見えた。
マッドハッター「おや、マローネですか」
○○「マローネ?」
マッドハッター「焼き栗のことです。こんな季節に珍しい。一つ試してみましょうか?」
彼が声をかければ、三角に折ったお洒落な包装紙に、
熱々の焼き栗を入れて店員が手渡してくれる。
マッドハッター「熱いですから気をつけて?」
○○「はい、あっ・・・・本当に、・・・・熱っ!」
一粒口に放り込んで白い息を吐き出す。
マッドハッター「ふふ・・・・可愛らしい方だ。私にも一ついただけますか?」
包み紙ごと差し出すと、彼は困ったように目をすがめて・・・・ー。
マッドハッター「そうではなく、君の手で」
○○「え!?」
マッドハッター「・・・・」
帽子屋さんの涼しげな視線が、私に注がれている。
○○「・・・・どうぞ」
丸い栗を一つ摘まんで彼の口元に運ぶと、柔らかな唇が指先に触れた。
マッドハッター「・・・・うん、悪くない味だ」
小さく頷いて、彼は私に微笑んだ。
こうして私達はその後も冬のメゾン・マッドネスの街を回った。
けれど、やっぱり帽子屋さんは時折、私に不思議な質問を投げかける。
マッドハッター「さてと、ここで私が昨晩見た夢の話をしましょう」
○○「どんな夢ですか?」
マッドハッター「百獣の王と小鳥の話です。あれは本当に不思議な夢でした・・・・」
彼は意味深に笑って、夢の詳細を話してくれる。
それは死に瀕したライオンと、その背で美しく歌うナイチンゲールの少し寂しい話だった。
マッドハッター「私は大変胸を打たれたのですが・・・・君は、私がどちらに感情移入したと思います?」
出題意図の掴めない問いかけに戸惑いながら答える。
○○「ナイチンゲールでしょうか?」
マッドハッター「おや・・・・そう思いますか?」
クスリと笑い、帽子屋さんは私の肩に手を回した。
(それなら・・・・)
○○「ライオンでしょうか?」
マッドハッター「ふふ、答えは君の想像にお任せしましょう」
静かに瞳を閉じた後、帽子屋さんは私の手を取った。
結局答えはわからないまま、私は彼の煙るような瞳を見ながら問いかける。
○○「どうしていつも私に会う度に不思議な問いかけをするんですか?」
マッドハッター「おや、逆に私に質問ですか?」
彼は私の耳元に唇を寄せて、囁くような声で言う。
マッドハッター「さて、どうしてでしょう? ですが私の答えなどどうでもいい。君との会話は私にとって大変に有意義なものなのですから」
(はぐらかされたのかな?)
眉を寄せる私を見て、どこか楽しそうに彼は目を細める。
(なんだか・・・・からかわれているような気がする)
○○「教えてはもらえないのですか?」
少し口を尖らせて、もう一度彼に問いかけてみる。
すると彼は意外そうな顔をしたのち、しばらく口をつぐみ、
深く何かを考える素振りを見せたのだった・・・・ー。