久しぶりに再会した帽子屋さんに連れ出されて外へ出ると・・・・
空からは泡雪が次々と舞い落ちてきた。
(冷たい・・・・)
頬に落ちた雪の冷たさに目をつむると・・・・ー。
マッドハッター「寒くはないですか、お嬢さん?」
○○「あ・・・・っ」
隣にいた彼が優しく私を腕の中へ抱き寄せた。
腕に包まれながら大通りを行き交う人々の様子に視線を移す。
(随分お洒落な人が多いみたい)
摩天楼の下を闊歩するのは、豪華な毛皮のコートやブランド品のコートを身にまとった人々ばかり。
(なんだか気後れしちゃうな・・・・)
マッドハッター「おや、どうしました?」
胸元を握りしめた私に気づいて、帽子屋さんがこちらを覗き込む。
マッドハッター「ふむ。そうですね・・・・。 パーティもありますし、君のドレスと帽子でも仕立てに行きましょうか?」
○○「いえ、わざわざそんなことをしていただくわけには・・・・ー」
マッドハッター「遠慮はいりません、リトルプリンセス。私のことはプレゼントを運んでくるサンタとでも思えばいい」
○○「でも・・・・」
それでも躊躇する私の言葉を彼は人差し指を唇に押し当てて止めた。
マッドハッター「それよりも・・・・私はアリスからサンタの話を聞いた時、彼の正体について考えたのですよ。 彼は人々へ贈り物を届け続けるうちに、きっと人以外の何かになってしまったのではないかと・・・・?」
問いかけのような彼の言葉に・・・・ー。
○○「人以外の何か?」
マッドハッター「ふふ・・・・そうです。人以外の何か・・・・。 ですが、それは実際のサンタを目にしたことのない私には計り知れないことです。 さあ、着きましたよ」
その時、彼の足が止まった。
そこは彼の店にほど近い所にある高級アパレル店だった。
マッドハッター「行きましょう、お嬢さん」
○○「・・・・っ」
帽子屋さんは私の手の甲に口づけを落としてから、私を店の中へと案内した。
店の中をぐるりと見渡すと・・・・ー。
そこには見たこともないような豪華なドレスやアクセサリーの数々が展示されていた。
マッドハッター「さて、帽子は私が仕立てるとして、まずは君の採寸をしなければ・・・・」
○○「え!?」
彼が指を鳴らすなり、その場にいた店員のポケットからメジャーが飛び出し、
独りでに私の体を測り始めた。
マッドハッター「・・・・ふむ、ではあそこにあるドレスをこのサイズで」
彼はトルソーにかけられた薔薇のような赤いドレス指差して、
驚きに固まる店員の手にメジャーを返した。
しばらくして店員が持ってきたドレスに着替えて私が試着室を出ると・・・・ー。
マッドハッター「・・・・っ!」
帽子屋さんは珍しく目を大きくして深く頷いた。
マッドハッター「・・・・とても素敵です。あまりに似合うので見違えてしまいました。 そのドレスに似合うネックレスをつけて差し上げましょう」
○○「ありがとうございます・・・・」
胸を微かにときめかせる私の手を引いて、姿見の前に立たせる。
そして、ダイヤの連なったネックレスを私の首元へ飾った。
(綺麗・・・・自分じゃないみたい)
けれど・・・・ー。
マッドハッター「ふむ・・・・」
帽子屋さんはステッキをトンと床につけると、訝しげに瞳を細めた。
マッドハッター「これはこれで確かに美しくはあります・・・・ですが。 君にはもっとふさわしいドレスがある気がする」
○○「え・・・・ー」
マッドハッター「次の店に行きましょうか?」
○○「でも、そんなにお手間をかけさせるわけには・・・・」
マッドハッター「手間だなんて・・・・そうですね、ではこうしましょうか? 私がプレゼントを贈る代わりに、君が私の願いを一つだけ聞き届ける。どうでしょう?」
○○「願い、ですか?」
マッドハッター「ええ、君にしか叶えられない、けれど君には叶えられない願い」
(これも謎かけなのかな?)
(帽子屋さんの願いって、いったい何だろう・・・・?)
彼はただ私を見て唇に微笑みをたたえる。
その真意がわからないまま、私は再び彼に手を引かれて冬の街へと出たのだった・・・・ー。