それから数日…ー。
一時は悔しさに険しい顔をしていたものの、
ヴィオさんはすぐに立ち直って彼らしく前向きに、来るべき日に向けて調整を行っていた。
ヴィオ「よし、快晴吉日!今日こそは頑張るぞ!」
体調も万全の状態で、ヴィオさんがウォーミングアップを続ける。
そして…ー。
(ヴィオさん、頑張って…!)
スタートの合図が鳴り響き、耳をつんざくような大声援のもと、
ヴィオさんが風を切って駆け出す。
観客1「ヴィオ王子ーー!」
観客2「王子!頑張れ!」
前の騒ぎもあり、集まったたくさんの観客がヴィオ王子に熱い声援を送る。
(ヴィオさん…!)
ただひたすら前だけを見て駆け続ける彼の姿を、瞬きも忘れ見つめ続けてた。
○○「ヴィオさん!頑張って…っ!!」
けれど、その結果は…ー。
アナウンス「残念!残念です!今回も、世界記録更新ならず…!」
あと一歩というところで記録を破ることは出来ずに、ヴィオさんの挑戦は終わってしまった…ー。
(ヴィオさん…!)
弾かれたように観客席を降り、ヴィオさんのもとへ向かった。
けれど、すぐそばまで来て、悔しげにうなだれて唇を噛み締めるヴィオさんに、
何と声をかけるべきなのか、言葉が見つからない。
すると…ー。
ヴィオ「…怪我をしたまま走ったって、今日走ったって、一緒だったかもしれない」
ヴィオさんが、掠れた声で静かに言葉を紡いだ。
ヴィオ「約束を守れなくて…格好いいところ見せられなくて、ごめんな」
彼らしくない沈んだ声色が、私の胸を締め付ける。
(そんなこと…)
ヴィオ「オレは、もう…」
○○「駄目です!諦めないでください…!」
気がつけば、ヴィオさんの手を取りそう叫んでいた。
ヴィオさんが目を丸くして、薄く涙の膜が張った瞳を私に向ける。
○○「私、皆に夢を与えたいっていうヴィオさんの言葉に感動したんです。 私も皆も、ヴィオさんに勇気をもらっているんです。 だから、諦めないで…私はそんなヴィオさんが…ー」
感情のままにそこまで言いかけて、ハッと我に返る。
(私…何を言おうと)
ヴィオ「…」
ヴィオさんが驚いたように、大きな瞳で私を見つめている。
(は、恥ずかしい…!)
熱を帯びる頬を両手で隠そうとした時、ヴィオさんが私の手首をぐっと掴んだ。
ヴィオ「あの!!…さ」
思わず振りほどこうとしても、力強いヴィオさんの手がそれを許してくれない。
ヴィオ「今、何て…ー」
その時…ー。
観客1「ヴィオ王子、頑張ってください!」
私達の様子を見ていてくれた観客の人達が一斉に立ち上がった。
観客2「またいろんな挑戦を見せてください!」
観客3「皆、ヴィオ王子の挑戦が楽しみなんだ!」
大声援が巻き起こり、大きな競技場に一丸となってこだまする。
観客4「王子のこと見てると、自分もまだまだやれるって思いますからねえ!!」
ヴィオ「皆…」
(ヴィオさんの思いは…伝わっているんだ)
その光景に、私もヴィオさんも目を潤ませて胸を詰まらせた、その時…ー。
男の子「…ごめ…ごめ、なさい…」
突然すぐ近くで聞こえた声に振り返ると、
ヴィオさんと約束を交わした男の子が目に涙を溜めながら立っていた。
男の子「僕が先に、ズルしたから…僕が、王子様の靴に画鋲入れたんだからっ!」
○○「…」
(もしかしてって、思ってたけど…そんな…)
ヴィオ「…」
ヴィオさんは柔らかな笑顔を浮かべると、男の子の前に目線を合わせるようにしゃがむ。
ヴィオ「…ああ、わかっていた。もう済んだことは気にするな」
男の子「えっ…!」
○○「ヴィオさん…」
大きな瞳を細めて、ヴィオさんが男の子に笑いかける。
ヴィオ「な、オレ、どうだった?」
男の子「…かっこよかった」
ヴィオ「そうか!!嬉しいぞ!!」
男の子「お洋服は…かっこわるいけど」
ヴィオ「そうかそうか!!」
くしゃくしゃと男の子の頭を撫でながら、ヴィオさんが大きな声を上げる。
男の子「…その、だっ、だから王子様は約束守らなくていいんだからね! 僕なんかのために…」
ヴィオ「僕なんかって言うな。 オマエも、誰もかれも、大切なこの国の仲間だ。一緒に夢を見る、仲間なんだ!」
ヴィオさんが涙ぐみながら、大勢の観衆向かって手を上げる。
ヴィオ「これからも、一番に向かって走り続ける夢と感動を、皆に与える! だから一緒に、この国で燃え上がろうぜ!!」
ヴィオさんへの観衆はその後も、止むことなく降り注ぎ続けた。
熱い熱いこの国の中心にいる、燃えさかる炎ような王子を…
私は胸がいっぱいになりながら、見つめていたのだった…ー。