月6話 挑戦の延期

熱気で盛り上がりを見せる会場とは裏腹に、私の胸にはじっとりしとした不安が広がる…ー。

ヴィオ「だ、大丈夫だ、大したことない!騒ぎ立てないでくれ。このまま挑戦は続ける」

(ヴィオさん…)

ヴィオ「本当に、全然大丈夫なんだ」

我慢ももちろん、ヴィオさんの心が動揺していないか、私は心配でたまらなかった。

けれど頑なに競技に出ようとする彼に何も言えず、足の怪我を消毒していると…ー。

審判「…ヴィオ王子、今日の挑戦は延期しましょう」

ヴィオ「…!」

どこからか話が漏れてしまったのか、審判が神妙な面持ちでヴィオさんのもとへ話しに来た。

審判「王子にこのようなことが起きて…また何かあれば大変です。このまま続けることはできません」

ヴィオ「いや、駄目だ。延期も中止も、オレは絶対にしない」

(ヴィオさん…きっと、男の子と約束したから)

○○「ヴィオさん、男の子には私が話してきます。 だから、今度万全な状態で記録に挑戦しましょう」

ヴィオ「っ!駄目だ」

○○「…お願いします」

ヴィオ「…オレは絶対に、挑戦へ背を向けたりはしない」

ヴィオさんは、なかなか首を縦に振ってくれない。

○○「ヴィオさん」

足の消毒を終え、私はそのままヴィオさんの震える手を握る。

ヴィオ「○○?」

○○「そんな状態で競技に出ても、きっと力が出せないと思います」

ヴィオ「でも…オレの都合で競技を中止させるわけには」

私はなだめるように、彼の手をさすった。

○○「一番にこだわっているなら、万全の状態で…そのことにもこだわってみませんか? 皆に夢を見せるために」

ヴィオ「…」

唇を引き結んでうつむくと、ヴィオさんの桃色の髪が垂れ、彼の表情を隠した。

その髪に触れたいという気持ちを抑えながら、私はぎゅっとヴィオさんの手を握りしめていた…ー。

 

 

<<第5話||<<太陽SS||月7話>>