熱気で盛り上がりを見せる会場とは裏腹に、私の胸にはじっとりしとした不安が広がる…ー。
ヴィオ「だ、大丈夫だ、大したことない!騒ぎ立てないでくれ。このまま挑戦は続ける」
(ヴィオさん…)
ヴィオ「本当に、全然大丈夫なんだ」
我慢ももちろん、ヴィオさんの心が動揺していないか、私は心配でたまらなかった。
けれど頑なに競技に出ようとする彼に何も言えず、足の怪我を消毒していると…ー。
審判「…ヴィオ王子、今日の挑戦は延期しましょう」
ヴィオ「…!」
どこからか話が漏れてしまったのか、審判が神妙な面持ちでヴィオさんのもとへ話しに来た。
審判「王子にこのようなことが起きて…また何かあれば大変です。このまま続けることはできません」
ヴィオ「いや、駄目だ。延期も中止も、オレは絶対にしない」
(ヴィオさん…きっと、男の子と約束したから)
○○「ヴィオさん、男の子には私が話してきます。 だから、今度万全な状態で記録に挑戦しましょう」
ヴィオ「っ!駄目だ」
○○「…お願いします」
ヴィオ「…オレは絶対に、挑戦へ背を向けたりはしない」
ヴィオさんは、なかなか首を縦に振ってくれない。
○○「ヴィオさん」
足の消毒を終え、私はそのままヴィオさんの震える手を握る。
ヴィオ「○○?」
○○「そんな状態で競技に出ても、きっと力が出せないと思います」
ヴィオ「でも…オレの都合で競技を中止させるわけには」
私はなだめるように、彼の手をさすった。
○○「一番にこだわっているなら、万全の状態で…そのことにもこだわってみませんか? 皆に夢を見せるために」
ヴィオ「…」
唇を引き結んでうつむくと、ヴィオさんの桃色の髪が垂れ、彼の表情を隠した。
その髪に触れたいという気持ちを抑えながら、私はぎゅっとヴィオさんの手を握りしめていた…ー。