太陽最終話 勝利の女神

張り詰めた空気が、場内に満ち満ちている…―。

向かうゴールへ鋭い視線を走らせて、ヴィオさんが集中力を高めている。

(ヴィオさん……!)

やがて、スタートのピストルが鳴った瞬間、ヴィオさんは風のように駆け出した。

観衆1「ヴィオ王子―っ!!」

観衆2「頑張って―!!」

大きな歓声が飛び交い交差する。

思わずきつく手を握り締めながら、ちらりと隣を見ると、男の子も緊迫した表情を見せていた。

そして、長いようで一瞬の時間が終わり…―。

アナウンス「ゴ―――ル!!!ヴィオ王子っ、ヴィオ王子のタイムは…! な、何とっ、世界記録と同じ!世界記録と、完全同タイムです……!」

アナウンスと共に、場内から溢れんばかりの歓声と拍手が起こる。

○○「ヴィオさん……!」

思わず叫んで、男の子と一緒にヴィオさんの元へ駆け寄った。

○○「ヴィオさん!おめでとうございます」

ヴィオ「……」

○○「ヴィオさん?」

深く息を吐いて、ヴィオさんは顔をうつむかせる。

ヴィオ「駄目だ、記録を抜くことはできなかった……」

あくまで一番であることにこだわる彼に、胸が熱く苦しくなる。

(でもこんなに皆が笑顔になって……ヴィオさんを祝福しているのに)

その時…―。

男の子「格好良かった……!」

ヴィオ「オマエ……」

男の子が興奮したように、大きな声で言った。

男の子「あの……あの、ヴィオ王子っ、ごめんなさい……!」

それから男の子は、深く頭を下げた。

男の子「ごめんなさい……僕……僕」

ヴィオ「何も言わなくていい。それより、見に来てくれてありがどうな!」

言いにくそうにうつむいていく男の子の頭をぽんぽんっと叩いて、ヴィオさんは優しい眼差しを男の子に向けた。

ヴィオ「約束だからな。オレはもう…―」

男の子「だめだよ……!」

ヴィオ「でも、ケジメはつけないとな」

男の子「だったら……だったら、これからも挑戦し続けて! 僕の言うこと、聞いてくれるんだよね」

ほとんど泣きそうな声で、男の子がヴィオさんに訴えかける。

ヴィオ「……」

○○「ヴィオさん。約束は守らないといけませんよね」

私も微笑みながら、男の子の背中に手を添えてヴィオさんに向かい合う

ヴィオ「……そうだな。 約束通り、オレはこれから挑戦し続けるよ。 だからオマエも諦めるな。諦めたらそこで終わりで、それ以上の夢も未来もない。 諦めない気持ちは誰にでもあるし、チャンスも誰にでもあるんだ。 いくらだって挑戦し続けられる!オレも頑張るぞ、これからも」

ヴィオさんを見ながらいっそう輝く瞳から涙を零して、男の子は大きく頷いたのだった…―。

その日の夜、城へ戻るとお祝いのパーティが盛大に開かれた。

ヴィオさんの嬉しそうな顔と、ゴールした時のあの姿が、今もまぶたに焼き付いて離れずにいる。

○○「ヴィオさん、本当におめでとうございます」

少しゆっくりしようと一緒に庭へ出たヴィオさんに、私はもう何度目かのお祝い言葉をかけた。

ヴィオ「ありがとうな。と言っても、一番じゃないからちょっと複雑だけど……」

○○「だって、すごく嬉しくて感動したから……」

ヴィオ「オレ、オマエにも夢を届けられたんだな?感動と一緒に」

○○「はい。もちろんです」

ヴィオ「そうか。やっぱり、諦めないに限るな!」

○○「っ……!」

嬉しそうに言ったかと思えば、ヴィオさんが私の腰を抱き抱え上げた。

不安定に宙に浮かいた体を支えようとヴィオさんの胸板に手をつくと、がっしりとした鋼のような筋肉に触れて、ドキリと胸が高鳴る。

ヴィオ「オマエのおかげで心おきなく集中できた。だから怪我の痛みも全然忘れてて……最後まで満足のいく走りで終えられた。 ありがとうな!○○!」

○○「あっ……ヴィオさん」

抱き上げられたまま、ヴィオさんは楽しそうにぐるぐると回り出して……めくるめく視界の中、ヴィオさんの笑顔が一際輝く。

ヴィオ「オレ、今日は最高の気分だ!」

ヴィオさんは嬉しそうにそう言うと、私をそっと地面に下してくれた。

顔を上げると、慈しむような表情を浮かべたヴィオさんがいて……

スチル(ネタバレ注意)

ヴィオ「オマエはオレの……」

言葉を紡ぎながらヴィオさんの指先が頬に触れ、じっと私の瞳を見据える。

月夜に輝く瞳は、いつの時よりも美しく情熱的に輝いて見えて……

ヴィオ「勝利の女神だから」

恥ずかしげもなく、満たされた顔でそんな言葉を私にくれた。

(ヴィオさんが触れている頬が、熱い……)

ヴィオ「だから、ずっとオレを応援してくれるか? オマエがいれば、いつまでだってどこまでだって走っていける気がする」

○○「ヴィオさん……」

ヴィオさんの顔がゆっくりと近づいてくる。

速まる鼓動を抑えきれないままに、そっと唇が重なる瞬間…―。

ヴィオ「まぁ、断らせないけどな。 勝利の女神は、オレだけのものだ」

ヴィオさんの甘く強い囁きに、私の胸を焦がす。その熱に浮かされて、賑わう人々のざわめきすら聞こえなくなっていったのだった…―。

 

 

おわり。

 

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