競技を前にして、活気づくレコルドの街の中…―。
ヴィオ「いや、今日でなきゃ駄目だ。今日でないと……意味がない。 ○○は、観客席であの男の子と一緒に見ててくれ。 いいな?」
ヴィオさんに言われた通り、彼の短距離走を例の男の子と一緒に見るため、男の子を探して競技場の外まで、探しに回っていると…―。
(あ、あの子だ)
見つけた男の子は、街の隅で小さくうずくまっていた。
○○「……どうしたの?もうすぐ、ヴィオさんの競技が始まるから一緒に見よう?」
声をかけると、男の子は涙に潤んだ目で私を見上げた。
男の子「ヴィオ王子……怪我、しちゃったんでしょ?」
○○「え……?」
男の子「僕……僕、やっぱりやめよう、こんなの駄目って思って、全部取ったつもりだったんだ。 でもっ、でも、残ってたみたいで……っ」
(シューズに入ってた画鋲……この子が……)
男の子「僕、すごく悪いことしちゃった!ヴィオ王子はなんにも悪くないのに!」
大粒の涙を零し始めた男の子の背中を、優しく撫でてあげる。
○○「大丈夫だよ。ヴィオさんは、少しも怒っていなかったし、あなたに挑戦するのを見て欲しいって」
男の子「でも……」
○○「ヴィオさんね、走るのが一番得意なんだって。それで、練習では自己新記録も出したって言ってたよ。 だからヴィオ王子のこと、一緒に応援しよう?」
優しく説得を続けると、男の子はごしごしと涙を拭いて立ち上がった。
男の子「うん……!」
…
……
競技場に戻るとすでに、ヴィオさんがグラウンドに出ていた。
(気付いてもらえるかな……)
大勢の観客の中で難しいかもしれないと思いながら、大きく手を振ると…―。
ヴィオ「……!」
ヴィオさんも、すぐに気付いて大きく手を振り返してくれた。
ヴィオ「見ててくれよな!今日こそ絶対に、一番だ! 絶対の絶対に約束を守る!男と男の約束だからな」
ヴィオさんが、こちらへ向かって拳を突き上げる。
底抜けに明るい笑顔からは、怪我による動揺や陰りなど少しも感じられない。
○○「応えてあげて?」
そっと男の子に話しかけると、彼はおずおずと手を上げて……
ヴィオ「約束だ……!」
ヴィオさんの大声に誘導されるように、高く拳を突き上げた。
高く澄み切った空に、二つの拳が天を向く。
(良かった……頑張って、ヴィオさん!)
心の中で強く祈りながら、競技場を見つめる。
アナウンス「短距離走世界記録挑戦、まもなく開始となります」
場内へ流れるアナウンスで観客の声が大きくなった。
ヴィオさんが精神を集中するように、深い深呼吸を繰り返し、スタート地点に立った…―。