ヴィオさんが挑戦したパンツ重ね履き数の世界記録は、とうとう達成することなく終わってしまった…―。
ヴィオ「そんな……くそっ!」
ヴィオさんが、悔しさに顔を歪めて地面へ拳を叩きつける。
(ヴィオさん……)
声をかけたくて駆け寄ろうとした、その時…―。
街の人1「ヴィオ王子!お疲れ様です!!」
街の人2「ヴィオ王子―っ!」
街の人3「ヴィオ王子のいい挑戦だったぞ―!!」
どこからもなく湧き起った拍手が、やがて場内全域の拍手へと広がっていく。
それを聞いたヴィオさんはうなだれた顔をゆっくりと上げ、周りを見た。
ヴィオ「皆……」
多くの声援を受けて、ヴィオさんが今にも泣き出しそう顔を立ち上がる。
そして、両手で頬を勢いよく叩き、くしゃりと笑顔を見せた。
ヴィオ「よーし、こうしちゃいられない! 次は、短距離走に挑戦するから、良かったらまた、応援に来てくれよな!」
応援に集まった観客に向かって、ヴィオさんが朗らかで大きな声を出す。
ヴィオ「○○も、次も絶対に見てってくれ」
ヴィオさんの手が、私を求めるように伸びてくる。私は…―。
○○「はい」
すぐに私は、伸ばされたヴィオさんの手を取った。
ヴィオ「オマエの声援、遠くからでも聞こえてきた。 応援って不思議だ!普段の自分の力が何倍にもなる!!」
灼熱の太陽のようにまぶしく力強い眼差しを向けられると、胸が小さく鳴った。
(ヴィオさん……次は一番を取れるといいな)
心地良い手の熱を感じながら、私はヴィオさんに笑いかける。
けれどその時、小さな男の子が難しい顔をして私達に歩み寄ってきた。
ヴィオ「ん?そうしたんだ?」
男の子「……どうせ、無理だよ」
○○「え……?」
男の子「何回やったって一番になれっこない。頑張っただけじゃ駄目だもん」
(そんな……)
男の子の衝撃的な発言に言葉を失っていると、母親らしき女性が血相を変えて走ってくる。
男の子の母親「何てことを!申し訳ございません、ヴィオ王子っ!」
ヴィオ「いや……いいんだ」
慌てふためく母親に、ヴィオさんは緩くぶりを振って……
ためらうこともなく、腰を落とし男の子と目線を合わせた。
ヴィオ「今日は記録更新できなくてごめんな。でも次は絶対に一番取ってみせるぞ」
男の子「嘘だ……王子様はそう言っているけど、いつもいつも二番じゃないかっ!」
(あ……)
ー----
ヴィオ「自分で言うが、オレはなんでも得意だ!だけど、記録はいつも2位止まり……」
ー----
それでもヴィオさんは、迷いの無い眼差しを男の子に向ける。
ヴィオ「……だけど諦めたりはしない。オレは自分の可能性を信じたいんだ」
男の子「でもっ……」
男の子の母親「本当にすみません、ヴィオ王子……この子も王子のように毎日努力して、徒競走を頑張っていたんですが……今年もやっぱり、他の子に負けてしまって……すねてしまっているんです」
男の子「……ふんっ」
ヴィオ「なるほどな……」
男の子「どれだけ努力したって意味ないよ!」
ヴィオ「そんなことはない。頑張り続けたら一番になれる日が来る」
男の子「なれない!」
ヴィオ「なれる!」
男の子はそのまま一時、何かを考えている様子だったけれど……
男の子「じゃあヴィオ王子が次の挑戦で一番を取ったら、僕も諦めないことにする」
ヴィオ「!!ああ…―。」
男の子「その代わり、一番を取れなかったら……僕の言うことを聞いてよね」
ヴィオ「ああ、何でもいいぞ」
○○「でも、ヴィオさん……!」
慌てて止めようとすると、ヴィオさんはとても穏やかな顔で微笑んだ。
ヴィオ「大丈夫だ。オレがこうしたいんだから。 何でもいい。オマエの望みは何だ?」
ヴィオさんは至極穏やかな様子で、再度男の子に問いかけている。すると、男の子は…―。
男の子「……じゃあ、王子やめてよ」
○○「っ……!」
(お、王子をやめるだなんて……)
けれど、ヴィオさんは表情一つ変えずに、真っ直ぐに少年を見つめていた…―。