ヴィオ「今日、行われるのは……パンツ重ね履きの限界記録への挑戦だ!!」
ヴィオさんの大きな声が、澄み渡った空へと響き渡る…―。
(パンツの重ね履きの限界記録……?)
彼の言葉を心の中で繰り返してみる。
(王子様が……?)
驚きで声が出ないままの私に、ヴィオさんは溌剌とした笑顔を見せた。
ヴィオ「今回の記録は、おもしろ記録の部類に入るんだ。 オレは、ありとあらゆるジャンルの記録保持者になることが目標だからな!」
私が驚いていることに気づかないまま、ヴィオさんは熱く語り始める。
ぐっと握り締めた拳からも熱気が感じられるようだった。
ヴィオ「今日のこの日のために、腰周りも絞れるだけ絞ってダイエットしたし……」
○○「すごい熱の入りようですね」
ヴィオ「ああ!何でも本気で全力投球だ」
闘志に燃える瞳は、めらめら赤く燃えているように見える。
ヴィオ「ちなみに、世界記録はパンツ302枚だ。よってオレは、303枚を目指す!!」
○○「303枚!?」
(本当にそんなに履けるのかな?)
ふと周囲を見渡すと、見物に集まっている街の人達が楽しそうにヴィオさんに声援を送っている。
(でも、そうだ……私の知ってるギネスにも、ちょっと変わった面白い記録もあった)
そんなことを思い出し、自然と頬が綻んだ。
ヴィオ「ん?○○、どうしたんだ?急に笑って」
○○「いえ。私、応援してますね!」
ヴィオんさんにつられ、声が明るく大きくなったことが自分でもわかる。
(一緒にいると楽しくなってくる……不思議で素敵な人)
ヴィオ「おう!目指せ303枚だ!!」
ますます意気込んだ様子で、ヴィオさんは準備運動をし始めた…―。
…
……
そうして始まった、本日のパンツ重ね履き数世界記録への挑戦は、燃え上がる熱気に激しく包まれた。
街の人1「ヴィオ王子―っ!!」
街の人2「頑張って―!!あと100ま―いっ!!」
大きな声援や、応援の楽器などが激しく鳴らされている。
感じたことのないくらいの熱量に気圧されそうになりながらも、私もヴィオさんの応援を続けた。
○○「ヴィオさん!頑張ってください!」
周りの声にかき消されて聞こえないかも知れないけれど、精一杯、声の限りに張り上げる。
司会者「さぁ!かなり、盛り上がってまいりましたっ! あと、88枚!あと、87枚!!」
放映用のカメラや司会者の方も、その場を盛り上げるべく必死に動き回る。
ヴィオ「ぐう……きつくなってきたぞ……まだ……まだまだぁっ!!!」
ヴィオさんが叫べば、その場の声援は新たに膨らみを増す。
私は、何とかヴィオさんに自分の応援を届けたくて…―。
○○「ヴィオさ―ん!頑張ってくださ―い!」
その場で幾度も飛び跳ねながら、ヴィオさんの応援をすると……
ヴィオ「……!○○、あと10枚いくぞ―っ!!」
ヴィオさんは私に気づいて、笑顔で気合を入れた。
やがて…―。
司会者「さて、あと3枚ですが……!?」
ヴィオ「うっ……ぐっ、き、きつい……っ、が……履けた……!!」
○○「ヴィオさん……!」
司会者「いきました!あと二枚ですっ!あと!たったの!二枚!!」
ヴィオ「ぐう……ぐ……ぐ……入ら……な……ああああああああ!!!」
○○「……!」
なんと……あと二枚で記録更新というところで、履きかけたパンツが豪快に破れてしまった。
大きな叫び声が、競技場に響き渡る。
(そんな……)
さっきまで闘志に溢れていたヴィオさんの表情が、みるみるうちに暗く沈んでいった…―。