心地よい潮風が、オレ達の頬を撫でていく…-。
オレと〇〇はアイスを食べながら、最初に見つけた入江を目指して歩いていた。
(並んで買って、よかったなぁ)
幸せそうにアイスを食べる〇〇の顔を見ていたら、嬉しくなってしまう。
(だーくそっ! やっぱかわいいって思っちまう…)
陽影「それで? 待望のアイスの味はどうだ?」
〇〇「はい、すごくおいしいです!」
これ以上ないくらいの満面の笑みで答えるから、思わず吹き出してしまう。
(ホント、オマエは素直だな)
陽影「オマエ…アイスぐらいで幸せそうな顔しすぎ」
(見てるこっちまで、幸せになっちまうよ)
〇〇「だ、だって…」
陽影「全くオマエは、子どもかよ」
自然とオレまで笑ってしまう。
(なんでかな…)
(ただアイスを食べながら歩いてるだけなのに、オマエと一緒だとこんなに楽しい)
そんなことを思いながら、のんびり歩いていると…
アイスを食べ終わった〇〇が、波間に漂うビーチボールを見つけた。
陽影「誰かが忘れて帰ったんだろうな」
〇〇「そうですね…あんなふうに浮かんでいると、なんだかちょっと寂しそう…」
陽影「まあな」
波に身を任せるビーチボールを見ていると切ない気持ちになり、思わずすくい上げた。
陽影「ちょっとやってみるか?」
〇〇「はい。あ、でも…手加減してくださいね」
陽影「それはどうかなあ?」
オレは袖をグッとまくり上げ、気合を入れてみせる。
それを見て、〇〇も、上に羽織っていた上着とリゾートワンピースを脱いだ。
陽影「おっ…」
水着姿に、思わず声が漏れてしまった。
日差しに照らされた〇〇の白い肌が輝いて見える。
(綺麗、だ…)
〇〇「な…なんですか?」
陽影「いや…えーっと…」
〇〇「…?」
焦ったオレは視線を海へ向ける。
(海なんだから当然水着だろ。なに焦ってんだよオレは…)
自分にツッコミをいれながら、なんとか胸の鼓動を抑えようとするがダメだった。
〇〇「あ、あの…-」
無防備な体をオレに向けたまま、彼女は首をかしげている。
その姿がまぶしすぎて…-。
(…ダメだ、オレ)
陽影「よし! …始めんぞ!」
内心を誤魔化すように大きな掛け声を上げ、ビーチボールを始めた…-。
…
……
オレ達は青空の下、ビーチボールを楽しんでいた。
陽影「いくぞー!」
〇〇「えいっ…!」
陽影「おー上手い上手い!」
(こんなふうに遊ぶのって、久しぶりだな)
陽影「次はちょっと強めのなー!」
〇〇「…待ってください。あ!」
オレの打ったボールが、〇〇の脇をすり抜けていった。
陽影「ゴメンな! 強すぎたか」
ビーチボールを取りにいく〇〇の背中を追いかけなが声をかける。
(〇〇…)
揺れる白い背中を見つめながら、抱きしめたい衝動に駆られる。
〇〇「大丈夫です。次はちゃんと返します」
笑顔をビーチボールを手に立ち上がる〇〇から、目が離せなくて……
(ホントに…まぶしすぎるよな)
オレは吸い寄せられるように、その額にキスを落とした。
柔らかな感触が唇から広がり、その余韻に酔いしれてしまう。
〇〇「陽影さん…?」
陽影「あ…! いきなり、わりぃ! 驚くよな、そりゃ。うん。けど…」
(オマエが好きすぎて、どうしようもない。我慢なんてできねえよ…)
陽影「…なんかオマエ…かわいかったから! その、水着とか…」
(変だよな。オマエといると調子が狂う)
(勝手に気持ちが溢れて、止められなくなる)
陽影「嫌…だったか?」
〇〇「そんなこと…ないです」
陽影「そっか…よかった」
その言葉に甘えるように、〇〇の腕をそっと引いた。
その拍子に、ビーチボールが転がり落ちていく。
(…やっと捕まえた)
オレは壊れないようにそっと〇〇を腕の中に閉じ込める。
陽影「…オレ達、いつも一緒にいれるわけじゃないだろ?」
〇〇「はい…」
(離れている間、オマエのことばかり考えてたよ)
(喜ばせたいって…どんな顔して笑ってくれるかなって)
陽影「だからさ、傍にいる時ぐらいオマエのこといっぱい喜ばせたいと思って…。 そのせいでさっきは変に気負っちゃったけど」
(でも、きっと…)
(オマエを笑顔にする方法は、素直な気持ちを伝えることなのかもしれないな)
陽影「オレ今…〇〇と一緒にいられて、すごい幸せだよ」
(他には何もいらない。オマエがいてくれるだけで、それだけでオレは幸せだよ)
〇〇「…私もです」
彼女はそう言って頬笑んでくれた。
陽影「…うん」
嬉しさを噛みしめるオレの声は、波の音に溶けて消えていく。
陽影「いっぱい思いで作って帰ろうな」
(二人だけの時間を、もっといっぱい楽しもう)
〇〇「はい…」
オレは〇〇を強く抱きしめる。
(それで…もう嫌っていうくらい、一緒に笑おうな)
砂浜にできたオレ達の足跡を、静かな波がさらっていた…-。
おわり。