陽影さんが買ってきてくれたアイスを食べながら、最初に見つけた入江を目指して、のんびり歩いていく。
陽影「それで?待望のアイスの味はどうだ?」
○○「はい、すごく美味しいです!」
満面の笑みで答えた私を見て、陽影さんが吹き出す。
陽影「オマエ……アイスぐらいで幸せそうな顔しすぎ」
○○「だ、だって……」
陽影「まったくオマエは、子どもかよ」
からかうようなことを言っても、陽影さんの目はどんなときも優しい。
(だからいつも、くすぐったい気持ちになる……)
そんなことを思いながら、アイスを食べ終わった頃、私は波間に漂うビーチボールを見つけた。
陽影「誰かが忘れて帰ったんだろうな」
○○「そうですね……あんなふうに浮かんでいると、なんだかちょっと寂しそう……」
陽影「まあな」
波打ち際に歩いて行った陽影さんがビーチボールを掬い上げる。
陽影「ちょっとやってみるか?」
太陽の光を背負って、私に笑いかける姿がまぶしい。
私は内心ドキドキしながら、陽影さんを見上げ頷き返した。
○○「はい。あ、でも……手加減してくださいね」
陽影「それはどうかなあ?」
いたずらっこみたいな笑顔を浮かべながら、陽影さんは袖をグッとまくり上げた。
それを見て、私も上に羽織っていた上着とリゾートワンピースを脱ぐ。
陽影「おっ……」
○○「な……なんですか?」
陽影「いや……えーっと……」
○○「……?」
私の姿を見たかと思ったら、陽影さんが視線を泳がせる。
(もしかして……水着?)
○○「あ、あの…―」
陽影「よし!……はじめんぞ!」
陽影さんの慌てた掛け声と共に、ふたりのビーチバレーが始まった…―。
やり始めると、楽しさから二人ともすぐ夢中になった。
それからしばらくの間、私達はビーチバレーを続けた…―。
陽影「いくぞー!」
○○「えいっ……!」
陽影「おーうまいうまい!」
陽影さんは、ちゃんと手加減して、優しいボールを返してくれる。
陽影「次はちょっと強めのなー!」
○○「……待ってください。あ!」
陽影さんが打ったボールが、私の脇をすり抜けて行った。
私は陽影さんに背を向けて、慌ててボールを追いかけた。
陽影「ゴメンな!強すぎたか」
ビーチボールを取るため屈んでいると、私を追いかけてきてくれた陽影さんの声が背後からした。
○○「大丈夫です。次はちゃんと返します」
笑いながらビーチボールを手にして立ち上がると、不意に陽影さんの影が近づいて…―。
○○「……!」
私の額に、触れるだけの優しいキスが落とされた。
○○「陽影さん……?」
額を触りつつ、驚いて陽影さんを見上げる。
陽影さんは真っ赤になりながら、私の目を見つめてきた。
陽影「あ……!いきなり、わりぃ!驚くよな、そりゃ。うん。けど……なんかオマエ……可愛かったから!その、水着とか……」
○○「……」
陽影「いや……だったか?」
○○「そんなこと……ないです」
陽影「そっか……よかった」
すると、腕が陽影さんにそっと引かれて…―。
(あ……)
手の中から、ビーチボールが転がり落ちていく。
私はそのまま、陽影さんの熱い腕の中に抱きしめられた。
陽影「……オレ達、いつも一緒にいれるわけじゃないだろ?」
○○「はい……」
陽影「だからさ、傍にいるときぐらいオマエのこといっぱい喜ばせたいと思って……そのせいでさっきは変に気負っちゃったけど、オレ今……○○と一緒にいられて、すごい幸せだよ」
○○「……私もです……」
私はドキドキしながら、なんとか言葉を返した。
陽影「……うん。いっぱい思い出作って帰ろうな」
○○「はい……」
ギュッと一度、強く抱きしめてから、陽影さんが私の体を離す。
私達は間近で微笑みを交わしあった。
(恥ずかしくて、胸が苦しいけれど……でもすごく幸せ)
陽影「もうすぐ夕暮れになるし、それまで海沿いを散歩しないか?海で見る夕焼けはすごく綺麗だから、オマエに見せたいんだ」
○○「はい、ありがとうございます……!」
陽影「よし、じゃあ行くぞ」
私の手を取って、陽影さんが歩き出す。
○○「陽影さん」
陽影「ん?どした?」
○○「すごく……楽しいですね!」
私の言葉に、陽影さんは一瞬目を瞬かせたけれど…―。
陽影「ああ、すっげー楽しいな!!」
これ以上ないくらい明るい彼の笑顔が、私に向けられた。
二人で過ごすこれからの素敵な時間に想いを馳せて、私は陽影さんの手を握り返したのだった…―。
おわり。