〇〇ちゃんを森に残して、暗い道を一人歩き続けた。
オレを呼ぶ彼女の声が、まだ耳に残っている…―。
(こんなはずじゃなかった……)
(キミを傷つけるつもりなんか……)
ヘラクレス「違う……危ない道だってことはわかってた」
(だけどオレは止められなかったんだ)
(キミが……出会った時から優しかったから)
――――――――――
〇〇「あの、大丈夫ですか?」
ヘラクレス「もしかして、キミが助けてくれたの?ありがと~!」
〇〇「っ……!」
――――――――――
(オレはキミと一緒にいたいって思ってしまったんだ……)
(一緒にいればいるほど、オレにも誰かを笑わせられるんだって、そう思えたから……)
(なのに……)
(キミを傷つけてしまって、オレはもう傍にはいられない……)
目の奥が熱くなって、視界がぼやけた。
ヘラクレス「なんだこれ……会ったばっかなのに……こんなに別れが辛いなんて思わなかった……」
抑えきれない力が、体から出ようと暴れ回る。
ヘラクレス「!」
(まるで、生き物みたいだ……)
ヘラクレス「おとなしくしろよ……オレの力だろ?」
オレは、力を抑え込むように両腕を握りしめた。
ヘラクレス「さよなら……〇〇ちゃん」
ここにはいない彼女に別れを告げて、オレは暗い道を歩き続けた…―。
…
なのに、彼女は来てしまった…―。
…
……
〇〇「ヘラクレスが残るなら、私も残る」
彼女がオレを後ろから抱きしめる。
ヘラクレス「!」
その腕の温かさに、オレはどうしていいかわからなくなる。
ヘラクレス「……キミは、バカなの?」
(頼むから、逃げてよ……)
ヘラクレス「さっきの見ただろ?」
(もう傷つけたくないんだ……)
ヘラクレス「オレは……人なんか簡単に壊せるんだよ」
(人に好かれる資格なんてない)
ヘラクレス「〇〇ちゃんだって」
(大切なんだキミのことが……だから……)
〇〇「そんな言い方をしても、ダメだよ……」
彼女は視線を逸らさずまっすぐにオレを見つめる。
〇〇「だって、ヘラクレスが優しいって、私は知ってるから……私はヘラクレスが好きだから、離れたくない」
ヘラクレス「〇〇ちゃん……」
〇〇「……離れたくないよ」
その言葉は、オレの抑えていた気持ちを溢れさせるには充分だった。
〇〇「っ……!」
〇〇ちゃんを引き寄せると、唇を塞いだ。
〇〇「ん……っ」
彼女の抵抗も構わず、オレは何度も彼女の唇を塞ぐ。
頼りない手がオレの服にしがみついた。
ヘラクレス「こんなオレが好きなんて……本当に、キミを捻り潰すかもしれないよ? 抑えられないんだ……この力を……」
〇〇「っ……」
(まだ今なら引き返せる……)
(けど、願うならこのまま……)
彼女を離したくなくて、腕に力が入る。
(折れてしまいそうだ……)
ヘラクレス「キミが……すごく大切なのに……」
(またこうやって……)
〇〇「ヘラクレス……」
オレの中の迷いに気づいているのか、彼女の手がオレの背中を優しく撫でた。
〇〇「それでも私は、傍にいたい……」
(〇〇ちゃん……)
〇〇「大丈夫だよ。きっと……ヘラクレスなら」
抑えつけていた力に飲まれていく。
狂気が意識を支配する…―。
ヘラクレス「なら、壊さない程度に、愛してあげるよ」
彼女を引き倒すと、床の上に縫いとめた。
〇〇「っ……!」
(壊したい……)
(傍にいて欲しい……)
二つの欲望がオレの中でせめぎ合う。
ヘラクレス「オレの腕の中で、ずっと……」
(だから今は、キミの温かさでその心を忘れさせて……)
…
……
空に星が浮かぶ…―。
オレは小屋から出ると、空を眺めた。
〇〇「ヘラクレス?」
〇〇ちゃんが小屋から顔を出した。
オレの隣に並ぶと、同じように空を見上げる。
ヘラクレス「これからどうしようか?」
〇〇「え……?」
ヘラクレス「このままどこか旅にでも出ようか」
〇〇「旅……」
(ずっとここにいるわけにはいかない)
(けど今戻れば、オレはきっとあの城を壊してしまう)
(黒い感情に支配されて、今度こそ止められない)
(ならいっそ、城を捨てた方が……)
〇〇「ヘラクレス」
彼女の手がオレの手に重なった。
ヘラクレス「……」
〇〇「旅もいいね」
ヘラクレス「そうだね」
(キミならそう言ってくれると思った……)
(いっそすべてを壊してしまいたい)
(そして最後にキミを……)
黒い感情を隠すように、オレは彼女の手の温かさを確かめる。
星だけが変わらずに、空で光輝いていた…―。
おわり。