ヘラクレスは男の首を掴んだまま振りかぶった。
〇〇「やめて!」
震える足で駆け出すと、私は彼を後ろから抱きしめた。
けれど、彼は腕を止めることができず、そのまま男を力任せに木に投げつける。
〇〇「っ……!」
反動で私の体が後ろに吹き飛ばされる。
〇〇「ヘラクレス……」
ヘラクレス「!」
地面にうずくまる私を見て、彼の金色の瞳が揺れた。
けれど拒むように彼は私から視線を逸らす。
〇〇「待っ……!」
ヘラクレスは、地面に倒れる男の方へと近づく。
そして、男の髪を掴み上げた。
男「うっ……!」
〇〇「ヘラクレス……!」
ヘラクレス「二度と俺に構わない方がいい……また同じ目に遭いたくなければ」
男「うううう……」
男は歯をガタガタと震わせて、必死に頷く。
それを冷たい瞳で見つめると、男を離した。
ヘラクレス「……」
尻もちをつき、男は這いずるように逃げていく。
その後ろ姿を見つめると、突然彼は自分の体を腕で抱きしめた。
〇〇「ヘラクレス!?」
ヘラクレス「うぁああ!」
抑えきれない力から逃れようと、彼が腕を振るう。
その風に煽られて、木々がなぎ倒されていく。
〇〇「っ……!」
(どうしよう……このままじゃ……!)
荒い息を吐き出し、ヘラクレスは再び力を押し込めるように腕で体を抱きしめる。
引きずるように歩きながら、彼が私を見つめた。
ヘラクレス「ごめん……」
その声は今にも泣きそうに震えていた。
〇〇「ヘラクレス……!」
彼は私から離れ去っていく。
その姿が、木々の向こうへ消えた。
(彼を止められなかった……)
立ち上がれずに、私は手を握りしめた。
(あんなに、力を怖がっていたのに)
(私がいたせいだ……)
悔しさで涙が出そうになる。
その時…―。
ネメァ「ミィ~」
小さな鳴き声が聞こえ、視線を上げると…―。
ネメァが私の前にちょこんと現れた。
〇〇「ネメァ?」
ネメァ「ミィ~」
ネメァはくるくると私の周りを歩くと、ヘラクレスが消えた方へ歩き出す。
〇〇「ヘラクレスの行った場所がわかるの?」
ネメァ「ミィ~」
答えるように鳴き声を上げ、ネメァが振り返る。
〇〇「ネメァお願い。私をヘラクレスの元まで案内して」
私の言葉がわかったのか、ネメァが走り出した。
その小さな後ろ姿を追いかける。
(ヘラクレス……)
私達の行く道を照らすように、天の川が淡く輝き続けていた…―。