月8話 苦しみの中で

ヘラクレスは男の首を掴んだまま振りかぶった。

〇〇「やめて!」

震える足で駆け出すと、私は彼を後ろから抱きしめた。

けれど、彼は腕を止めることができず、そのまま男を力任せに木に投げつける。

〇〇「っ……!」

反動で私の体が後ろに吹き飛ばされる。

〇〇「ヘラクレス……」

ヘラクレス「!」

地面にうずくまる私を見て、彼の金色の瞳が揺れた。

けれど拒むように彼は私から視線を逸らす。

〇〇「待っ……!」

ヘラクレスは、地面に倒れる男の方へと近づく。

そして、男の髪を掴み上げた。

男「うっ……!」

〇〇「ヘラクレス……!」

ヘラクレス「二度と俺に構わない方がいい……また同じ目に遭いたくなければ」

男「うううう……」

男は歯をガタガタと震わせて、必死に頷く。

それを冷たい瞳で見つめると、男を離した。

ヘラクレス「……」

尻もちをつき、男は這いずるように逃げていく。

その後ろ姿を見つめると、突然彼は自分の体を腕で抱きしめた。

〇〇「ヘラクレス!?」

ヘラクレス「うぁああ!」

抑えきれない力から逃れようと、彼が腕を振るう。

その風に煽られて、木々がなぎ倒されていく。

〇〇「っ……!」

(どうしよう……このままじゃ……!)

荒い息を吐き出し、ヘラクレスは再び力を押し込めるように腕で体を抱きしめる。

引きずるように歩きながら、彼が私を見つめた。

ヘラクレス「ごめん……」

その声は今にも泣きそうに震えていた。

〇〇「ヘラクレス……!」

彼は私から離れ去っていく。

その姿が、木々の向こうへ消えた。

(彼を止められなかった……)

立ち上がれずに、私は手を握りしめた。

(あんなに、力を怖がっていたのに)

(私がいたせいだ……)

悔しさで涙が出そうになる。

その時…―。

ネメァ「ミィ~」

小さな鳴き声が聞こえ、視線を上げると…―。

ネメァが私の前にちょこんと現れた。

〇〇「ネメァ?」

ネメァ「ミィ~」

ネメァはくるくると私の周りを歩くと、ヘラクレスが消えた方へ歩き出す。

〇〇「ヘラクレスの行った場所がわかるの?」

ネメァ「ミィ~」

答えるように鳴き声を上げ、ネメァが振り返る。

〇〇「ネメァお願い。私をヘラクレスの元まで案内して」

私の言葉がわかったのか、ネメァが走り出した。

その小さな後ろ姿を追いかける。

(ヘラクレス……)

私達の行く道を照らすように、天の川が淡く輝き続けていた…―。

 

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