夜が明け、透明な日の光が降り注ぐ…―。
川沿いを歩き続け、私達は花畑にたどり着いた。
ヘラクレス「到着~」
〇〇「到着?」
私に笑顔を見せると、彼は色とりどりの花畑を進んでいく。
その後を追うと…―。
ヘラクレス「オレの母さん」
花々に囲まれた小さな墓がそこにあった。
ヘラクレス「母さん、来るのが遅くなってごめんね。 紹介するね、こちらが〇〇ちゃん」
ヘラクレスの隣に並び、お墓に手を合わせる。
ヘラクレス「母さんとの思い出は、子どもの頃の思い出しかないけど。 それでも、とっても優しくて、オレはいつも母さんの傍にいた気がする。 継母上が来てからは、いろいろあって母さんはこの花畑の傍に一人で暮らすようになった。 ずっとここに来たかったけど……なかなかそれもできなくて」
ヘラクレスの瞳に哀しみが宿る。
その横顔が寂しげに見えて、私は彼の手にそっと自分の手を重ねた。
ヘラクレス「……」
繫いだ彼の手に力が込められる。
〇〇「だから、ヘラクレスも優しいんだね」
ヘラクレス「え?」
〇〇「ヘラクレスの優しさはきっとお母さん譲りだよ。 そうに決まってる」
ヘラクレス「……オレ、〇〇ちゃんと一緒に来れて本当によかった。 ここに来れたのも、〇〇ちゃんのおかげだし」
〇〇「私は何も……」
ヘラクレス「あのままだったら、オレ、あの人を殺しちゃうところだった。 ずっと怖かったんだ……力が暴走したらどうなるんだって……」
ヘラクレスは手のひらを見つめる。
〇〇「その時は、私がヘラクレスを止めるよ!」
悲しむ顔を見ていられず、私はヘラクレスに詰め寄った。
ヘラクレス「〇〇ちゃん……」
彼は今にも泣きそうなほど目を潤ませる。
けれど、数度まばたきをすると、首を傾げた。
ヘラクレス「えっと……どうやって?」
〇〇「どう……やって?」
思わぬ質問に、私もまばたきを繰り返した。
〇〇「それは、その……!」
(そうだよね、言葉だけじゃ難しいよね)
〇〇「ど、どうやってかはわからないけど、でも頑張って止めるから。 ネメァもいるし!」
ネメァ「ミィ~」
ネメァが応えるように、ヘラクレスの肩で鳴いた。
ヘラクレス「……」
(どうしよう、馬鹿なこと言っちゃった……)
自分で言ったことに、一人で勝手に頬を染めていると、
突然、彼が吹き出し笑い始める。
(笑われた……!)
ヘラクレス「ごっめん……でも、ありがとう」
笑いが収まらないのか、彼はお腹を抱えた。
目ににじんだ涙をぬぐい、微笑んだ。
ヘラクレス「そっか……オレには止めてくれる人がいるんだ」
ヘラクレスは力強い腕で私を引き寄せた。
〇〇「っ……!」
体がフワリと浮き上がり、彼が私を抱き上げたことに気づく。
〇〇「え? あの……」
(近い……!)
彼の優しい顔がすぐ傍にあって、顔が一気に熱くなっていく。
ヘラクレス「ありがとう、〇〇ちゃん。 オレ、キミがいれば寂しくないよ」
今まで見たこともないほど柔らかな笑顔でヘラクレスが微笑む。
胸の鼓動が痛いほど鳴り響いた。
〇〇「ヘラクレス……」
ヘラクレス「だからこのまま……。 このまま、ずっとキミに傍にいて欲しい……」
私を見つめる金色の瞳が、陽の光を受けて七色に輝いた。
〇〇「私も一緒にいたい……ずっと……」
ヘラクレス「〇〇ちゃん……」
ヘラクレスの大きな手が、私の頬にかかる髪を撫でた。
顔が寄せられて、鼻が触れ合う。
ヘラクレス「好きだよ……」
〇〇「私も……」
唇が重なり、離れると額を合わせた。
恥ずかしくなって二人で笑い合うと、再び自然に唇が重なった。
ヘラクレス「また一緒にここに来てくれる? 今度はたぶん……怖いことは起こらないから。 たぶんだけど」
ヘラクレスが眉尻を下げて笑う。
〇〇「もちろん」
風に色とりどりの花びらが舞い踊る。
色鮮やかな花の中で、私達はもう一度キスをした…―。
おわり。