力の抜けた足で何とか立ち上がると、ヘラクレスに近づく。
ヘラクレス「……」
私が近づくと、彼が怯えたように体を震わせた。
〇〇「ヘラクレス、その人を離して」
ヘラクレス「……」
〇〇「お願い、ヘラクレス」
彷徨う彼の視線が、ようやく私を見つめた。
彼の荒い息が少しずつ落ちついていく。
ヘラクレス「〇〇ちゃん……オレ……」
引きつったように見開かれていた瞳が、ようやくまばたきをした。
ヘラクレスの手から力が抜け、解放された男が地面に転がり落ちた。
〇〇「ヘラクレス……?」
数度まばたきを繰り返すと、ヘラクレスは壊れた森を見渡した。
ヘラクレス「……森が、ダメになっちゃったね」
穏やかな声でつぶやくと、彼は森から私に視線を移した。
金色の優しい瞳が私を見つめる。
ヘラクレス「〇〇ちゃん……ごめんね、怖い思いをさせて」
優しい声に、私の体から力が抜けていく。
(いつものヘラクレスだ……)
(よかった……)
嬉しさが込み上げて、目の奥が熱くなっていく。
ヘラクレス「わ~!やっぱり驚いたよね? 泣いちゃうぐらい怖かったよね!?」
〇〇「そうじゃ……」
違うと言おうとしても、喉が痛くて言葉にならなかった。
ヘラクレス「あーもー!オレってば~!」
ヘラクレスが焦ったように頭を抱える。
ヘラクレス「どうしようどうしよう~! あ、オレ離れた方がいい? 〇〇ちゃんがその方がいいなら、オレ……。 一人は寂しいけど~……。 でも離れた方がいいなら……」
〇〇「違うの……」
ヘラクレス「え……?」
〇〇「嬉しくて……」
ヘラクレス「嬉しい?」
〇〇「いつものヘラクレスだから」
ヘラクレス「〇〇ちゃん……」
〇〇「それに私、全然怖くなかったよ」
そう言って、ヘラクレスに笑って見せる。
けれど、強がりだとわかったのか、彼は泣き出しそうな顔で笑った。
ヘラクレス「ありがとう、〇〇ちゃん」
ヘラクレスは、まだ震えている私の手に触れようと、手を伸ばした。
少しためらって、恐る恐る私の手を握る。
(温かい……)
大きな手が私の手を包み込んで、彼の温もりが伝わってくる。
その時…―。
男「消えろ、狂気の王子!」
ヘラクレス「!」
鋭い声に振り向くと、男が私達に向かい突進してきた…―。