日が落ち、辺りの木々が濃い闇を作り出す。
その木々の間を私達は歩き続けた。
するとその時…―。
(蛍……?)
淡い光が私の視界を通り抜けた。
見ると、進む先の木々の隙間から、淡い金色の光が漏れていた。
ヘラクレス「着いたよ」
〇〇「え?」
ヘラクレス「天の川」
そこは流れる川が星を集めたようにきらきらと光り輝く場所だった。
川の光が溢れ出るのか、蛍のように辺りにはじけては消えていく。
〇〇「わあ……綺麗……」
ヘラクレス「気に入った?」
〇〇「うん、とっても!」
ヘラクレス「よかった」
靴を脱ぎ捨て、彼は川に入っていく。
ヘラクレス「〇〇ちゃんも入る? 浅いし、気持ちいいよ~!」
淡い光に包まれて、ヘラクレスが私に手を振る。
(楽しそう……)
誘われるまま、私も靴を脱ぎ光る川に足をのばした。
ヘラクレス「〇〇ちゃん」
とっさに彼が私に手を伸ばした。
けれど…―。
その手は、私に触れる前に避けるように降ろされてしまった。
〇〇「ヘラクレス?」
ヘラクレス「あ……ごめんね~……」
〇〇「ヘラクレス、どうしたの? 私と一緒だと、何か無理してるように見える……」
ヘラクレス「無理なんてそんな!」
〇〇「それならいいんだけど……」
ヘラクレス「絶対そんなことないから! オレ、〇〇ちゃんと一緒にいられて楽しいよ!本当に本当!」
ヘラクレスが、うなだれて視線を川へと落とす。
淡い光が、彼の悲しげな表情を照らした。
ヘラクレス「キミを傷つけたくないから……」
〇〇「え?」
ヘラクレス「オレ、バカ力だからさ。 もし何かのはずみで、キミに怪我をさせたらって思ったら……怖くなって。 この山もね、元は一つだったけど、オレが生まれた時に割れたんだって。 赤ちゃんのオレがオギャーって泣いたら割れたんだって。ビックリだよね」
(山を……!?)
ヘラクレス「今は一応、制御できるようにはなったんだけど……。 完璧ってわけじゃないから。 こんな力持ってるもんだからさ、城から追い出されちゃって」
哀しそうなヘラクレスの表情を見て、思わず私は彼の手を両手で包み込んだ。
私の手の中で、彼の大きな手が強張る。
〇〇「ヘラクレスならきっと大丈夫だよ」
ヘラクレス「〇〇ちゃん……」
彼は泣きそうな表情で目を細めると、私に空いた腕を伸ばした。
ヘラクレス「ありがとう……」
そっと抱き寄せられ、頬に彼の胸の暖かさを感じた。
彼は、力を入れないように、触れるだけの力で私を優しく抱きしめる。
(どうしてこんなに優しいんだろう……)
その優しさに、胸が音を立てる。
その時、周りの木々から、けたたましい鳴き声が響きわたった。
ヘラクレス「!」
彼がハッと体を強張らせ、私から離れる。
ヘラクレス「誰だ!」
彼の鋭い声が、木の陰に向けられる。
その暗闇から、一人の男が現れた…―。