第3話 悲しみを呼ぶ呪い

それから幾日か、私はヘラクレスと旅を続けた。

旅の間中、彼はいつも屈託なく笑ってくれたけど…―。

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ヘラクレス「……行こうか」

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あの時の寂しげな声が、私は忘れることができなかった…―。

街を抜け、妙な心細さを抱えたまま、山のふもとまでやって来た。

私達が進む獣道の横には大きな沼が広がり、その暗さが、不安な心をさらに掻き立てる。

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大猪『ヘラクレス……本当に忌まわしい……』

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あの呪詛のような大猪の声が頭に蘇る。

(あれは何だったんだろう……)

私は、前を歩くヘラクレスの背中を見つめた。

ヘラクレス「〇〇ちゃん、歩き辛くない?」

〇〇「大丈夫だよ」

ヘラクレス「よかった」

明るく声をかけながら、彼は私の歩く邪魔にならないように、枝や草をよけてくれる。

〇〇「ヘラクレス、あの……」

私が声をかけると、ヘラクレスの足が止まった。

振り向くと、彼は困ったように微笑む。

ヘラクレス「猪のこと?」

〇〇「あ…―」

ヘラクレス「やっぱり……気になるよね」

〇〇「うん……気になるよ」

ヘラクレス「そうだよね~……オレだってきっと気になると思うし。 だって猪がしゃべって消えるんだもんね~……」

冗談っぽく話すと、ヘラクレスは寂しそうに視線を落とした。

(どうしてそんな悲しい顔を……?)

ヘラクレス「……あれは、呪いなんだ。 ある人がオレを消したくて、たまにああいうのを差し向けてくる」

〇〇「そんな……」

ヘラクレス「もう、諦めたのかと思ってたんだけどさ~。 違ったみたい」

彼は微笑みを消して私を見つめた。

ヘラクレス「そんな状況なのに、〇〇ちゃんを誘うべきじゃなかったよね。 本当ごめん!」

(ヘラクレスが悪いわけじゃないよね……)

〇〇「そんなことないよ。私はヘラクレスと一緒に行きたい」

ヘラクレス「〇〇ちゃん……」

〇〇「誘ってくれてありがとう。ヘラクレスと一緒で楽しいよ」

ヘラクレス「オレもだよ!」

ヘラクレスの顔に、笑顔が戻っていく。

ヘラクレス「よし!じゃあオレが全力で守るから! 一緒に天の川見ようね!」

〇〇「うん」

見つめ合って、どこか照れくさくて二人で笑い出した。

けれど、それを打ち破るように、森の奥からシューシューという音が聞こえ始める。

(何……?)

(何かの息のような音……?)

その音と共に、地面を這いずるような音がこちらへ近づいてくる。

ヘラクレス「〇〇ちゃん!」

〇〇「っ……!」

私の腕を引くと、ヘラクレスは片腕に私を抱き上げた。

〇〇「ヘラクレス!?」

腕の中で彼を見上げる。

顔を険しくさせ、彼はさっきまで私のいた場所を睨んだ。

(いったい、何が……)

彼の視線をたどると…―。

〇〇「っ……!」

木々の間を縫うように、いくつもの頭を持つ巨大な蛇が現れた。

私達を見据えて、蛇はゆっくりと鎌首をもたげる。

ヘラクレス「ヒュドラか……」

ヘラクレスが私の顔を自分の胸に押し当てた。

耳元で彼がそっと囁く。

ヘラクレス「口を閉じて……あれには毒があるから、奴の息を吸い込んだら危ない」

私は彼の腕の中で小さく頷く。

視界の端で、ヒュドラが体を大きくうねらせた。

(怖い……)

ヘラクレス「戦いたくはないけど、向かってくるなら仕方ないね。 怪力王子ヘラクレス、参上! 以下略!」

ヒュドラ「シャァァアア!」

〇〇「っ……!」

耳を割くような奇声を上げ、ヒュドラが私達へ向かってくる。

ヘラクレス「させないよ」

彼は片腕で大蛇の首を掴むと、勢いよく振りまわす。

そして一塊になったヒュドラを木へ投げつけた。

(片腕でやっつけちゃった……)

彼の力の強さに、思わず目を見開く。

木からずり落ちながら、ヒュドラが、大猪と同じように煙になり消えていく。

(これも呪い……?)

ヘラクレス「〇〇ちゃん、このまま逃げるよ」

その煙が消えるのも確かめず、ヘラクレスは歩き始めた。

(ヘラクレス……)

腕の中で、彼を取り巻く寂しさが伝わってくるような気がした…―。

 

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