第2話 怪力王子、参上!

森を抜け、街に向かう道中…―。

ヘラクレス「突然誘っちゃってごめんね~……」

ヘラクレス王子はそう言って、恥ずかしそうに笑った。

ヘラクレス「いやほら、せっかく助けてもらったしさ……お礼もしたいし。 それに!このまま〇〇ちゃんを置いていくなんてできないし!」

まるで大問題に悩むかのように、彼が頭を抱える。

〇〇「あの……」

ヘラクレス「!」

私の声が耳に届いたのか、ヘラクレス王子がハッと私の方へ向き直った。

(どうしたんだろう……?)

ヘラクレス「突然だから迷惑だった? 迷惑だったら全然気にしなくていいからね?」

今にも泣きそうなほど顔を歪ませて、彼が私を見つめる。

(なんか、ヘラクレス王子ってかわいいかも……)

つい笑いそうになって、頬を引きしめた。

〇〇「あの、ヘラクレス王子」

ヘラクレス「王子なんて他人行儀だよ~。ヘラクレスでいいよ」

〇〇「あ……うん。あのね?ヘラクレス。 私は迷惑じゃないよ?」

ヘラクレス「本当に?それなら嬉しいよ~!」

〇〇「ただ、どこまで行くのかなと思って」

ヘラクレス「そっか!教えてなかったよね」

彼は、街の先に見える山脈を指差した。

真ん中で割れたような二つの峰……

ヘラクレス「あの山の向こうに、天の川っていう星の輝く川があるんだけど……」

(天の川って、夜空の……?)

ヘラクレス「そこに、会いたい人がいるんだ」

〇〇「会いたい人?」

ヘラクレス「オレの母さん」

(ヘラクレスのお母さんが、天の川に?)

山を眺める彼の表情が、少し悲しげに見えた。

その時…―。

??「グオォォォォォ!!」

ヘラクレス「!」

地響きのような低い雄叫びが響き渡り、辺りに悲鳴がこだまする。

〇〇「何……!?」

通りの向こうから、子ども達が私達の方へ逃げてくる。

その向こうに、人の大きさほどもありそうな猪がこちらへ向かって突進してくる。

ヘラクレス「皆、オレの後ろに!」

ヘラクレスが私達の前に立ちはだかる。

そして彼は腕を振り上げ、大猪を指差した。

ヘラクレス「怪力王子ヘラクレス、参上!オレの侠気パワー、受けてみろぉ!」

大猪「グォォォオオオオ!!!」

突進してくる大猪を、ヘラクレスが正面で受け止める。

ヘラクレス「! ……っと、痛かったらごめんね?」

彼は猪を両腕で持ち上げると、一気に地面へ叩き落とした。

〇〇「!」

石畳に叩きつけられ、大猪が大きな音を立てて倒れる。

(すごい力……)

ヘラクレス「ちょっとやり過ぎた……かな?」

ヘラクレスの申し訳なさそうな声が聞こえる。

街の子ども「すごいすごい!ヘラクレス王子!」

いつの間にか集まっていた人々の中で、子ども達が拍手を始める。

それに大人が続き、やがて大きな歓声が辺りに響き渡った。

ヘラクレス「そんな、皆大げさだよー」

〇〇「ううん、そんなことないよ。すごかったよ!」

ヘラクレス「ありがとう〇〇ちゃん」

少し頬を赤く染めて、ヘラクレスは笑う。

けれどその時…―。

大猪『ヘラクレス……本当に忌まわしい……』

(え……?)

倒れている大猪のいる方向から、怒りを含んだ重い声が聞こえた。

(今の声、もしかしてこの猪?まさか……)

驚く私達の前で、大猪が煙となって消えていく。

〇〇「消えた……?」

思わずヘラクレスを見上げる。

彼は瞳に哀しみを浮かべ、大猪が消えた場所をいつまでも見つめていた。

(ヘラクレス……?)

ヘラクレス「……行こうか」

ぽつりと私に言うと、彼はその場所に背を向けた。

その背中が、心細そうに見えて少し胸が苦しくなった…―。

 

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