??「お願いします……助けてください!」
必死な形相で、隣のクラスの男子学生が駆け込んできた。
柔らかな空気が一転、場が不穏な空気に支配される。
〇〇「あの、あなたは…―」
ケイ「僕はケイと申します。私のような者があなた達のような方々に頼みごとをするとは失礼ですが……」
イリア「学園内では、身分や階級など関係ありません。私は貴方と同じ、メモワール学園の学生です」
イリアさんがそう言うと、ケイさんはほっとして小さく息を吐いた。
イリア「どうされたのですか?」
ケイ「実は、僕達のクラスは、招待したチームとサッカーの試合をする予定なんですが……。 メンバーの一人が怪我をしてしまいまして……人数が足りなくなってしまったのです」
〇〇「それは、大変ですね……」
ケイ「はい……そこで急なお願いで申し訳ないのですがイリアさんに代役として参加して欲しいのです」
(えっ……イリアさんがサッカー!?)
急な申し出に、イリアさん自身も開いた口が塞がらないようだった。
イリア「し、しかし……私ではあまりお役に立てないと思います。 お世辞にも、私は運動神経がいいとは言えませんので……」
ケイ「得意ではないとは……どのくらいなのですか?」
イリア「そうですね……」
イリアさんは顎に手を当てて少し考えた後、その場で足を不自然に動かし出す。
(イリアさん……?)
ケイ「……??」
ケイさんも、困惑顔で私を見てくる。
けれどイリアさんは、片足でぎこちなくステップを踏むばかりで……
〇〇「イリアさん、何を……?」
戸惑いながら、恐る恐る問いかけてみる。
イリア「……スキップです」
(スキップ……今のが……!?)
ケイ「……」
ケイさんも同じことを思っていたようで、言葉を詰まらせている。
イリア「このように、私はスキップもままならないのです」
ケイ「……それでもいいです」
イリア「えっ……」
ケイ「観客席には人が集まってしまっていて……皆楽しみにしているのに、今さら中止になんてできなくて」
イリア「観客がいらっしゃるのですか……それは、大変ですね」
イリアさんの瞳に、徐々に決意の色が浮かんでくる…-。
イリア「私でよければ……是非」
ケイ「本当ですか!? ありがとうございます!」
(イリアさん、本当に大丈夫なのかな?)
(展示会のために、一生懸命研究していたのに)
私の気持ちを察したのかな、イリアさんは優しく微笑む。
イリア「私は、皆さんに喜んでいただけることが一番嬉しいです」
〇〇「でも……」
イリア「心配なさらないでください、〇〇様。 それに、約束しました。どれだけ失敗してもここで精いっぱい学ぶと」
―――――
イリア『どれだけ失敗しても、何があっても……精いっぱい、ここで学びたいと思います』
―――――
(イリアさん……)
イリア「皆でスポーツをする……きっと城にいたらこんな機会なんてありません」
イリアさんはにっこり微笑むと、ケイさんに促されるまま校庭へと向かっていった…-。