文化祭発表のヒントを探すため、〇〇様と校内を巡った後…-。
(悩むな……)
〇〇様と別れた後、私は一人教室の机に身を伏せていた。
校内を回り、魔術のヒントは様々得ることができた。
けれど、どれか一つに絞り込むことができず、私は思考を巡らせていた。
(物質変化の魔術……氷の魔術……)
イメージを思い浮かべてみるものの、いまひとつピンとこない。
(新しい魔術といっても、どうしたものか……)
窓の外から、生徒達の元気の良い声が静かな教室に響いてくる。
何気なく窓を見やると、昼下がりのまぶしい陽射しが目を掠めた。
(あ……)
―――――
〇〇『万華鏡みたいですね……!』
〇〇『すごく、素敵だと思います!』
―――――
鏡に映った七色の光の魔術……
それを見て、キラキラとした笑顔を浮かべる〇〇を思い出す。
(とても喜んでくれていた)
(あれは……〇〇様に喜んでもらいたいの一心で準備したものだった)
暖かな陽射しに包まれていると、不思議と心が軽くなっていく。
(そうだ……大切なのは、誰かに喜んでもらいたいという気持ち)
(私の魔術で、今皆を一番に楽しませることができるものは…-)
一つの決心と共に、私は昼下がりの教室を後にした…-。
…
……
そして、魔術展示が大盛況のうちに幕を閉じた後…-。
〇〇「すごい……! 綺麗な花火ですね」
夜空に舞う七色の光が、私達二人を照らし出している。
(やはり、とても綺麗な色だ)
イリア「この花火の色は、〇〇様の心の色です」
〇〇「え……?」
イリア「先ほどの球体は、人の心を投影するものなのです。 だから、持った人によってこの花火の色は違います」
〇〇「……そうなんですか」
イリア「想像した通り、とても綺麗な色ですね」
光は淡く灯ったかと思うと、情熱的に輝いて……楽しそうに夜空を彩っている。
(まるで、表情がくるくる変わる〇〇様のようです)
私は美しくきらめく光に見惚れてしまっていた。
(あ……)
ふと振り返ると、〇〇様の顔が間近にある。
二人並んで見上げているうちに、いつの間にか自然と距離が近づいていた。
〇〇「あっ……すみません」
(……離れないでください)
肩が軽くぶつかり、慌てて離れようとする〇〇様の肩を私は抱き寄せ…-。
〇〇「……!」
驚いたのか、〇〇様がかすかに体を跳ねさせた。
イリア「……嫌ですか?」
自分の胸が、ドキドキと大きな音を立てている。
(もし、嫌だと思われていたら……)
そう思うのに、私の腕が〇〇様を決して離そうとはしない。
(気持ちを抑えることができない)
〇〇様の顔を覗くと、彼女は首を小さく横に振った。
(良かった……)
イリア「〇〇様……」
名前を呼ぶと、〇〇様は静かに瞳を閉じる。
私はそんな彼女の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
(なんて幸せな心地なんだろう)
私達を見守るように、花火が何度も何度も打ち上って……
ゆっくりと唇を離し、私は目を潤ませた〇〇様を見下ろす。
イリア「初めての文化祭で、最高の思い出ができました。 〇〇様、ありがとうございます」
〇〇「私も、イリアさんと一緒にいることができて楽しかったです」
イリア「〇〇様……」
どちらからともなく、私達はまた唇を重ねる。
今度はもっと深く、もっと長く……
〇〇「ん……っ」
(あ……)
少し苦しそうな〇〇様の声が耳に入り、私はぱっと顔を離した。
イリア「す、すみません……」
〇〇「いえ……」
(今日は、どうしてこんな気持ちが高ぶって……)
(いけない、少し落ち着かないと)
イリア「〇〇様……皆のところに戻りましょうか」
〇〇「え……?」
イリア「後夜祭も、いろんな催しがあるようです。私たちも皆と…-」
そう言って歩き出そうとすると、〇〇様が私のブレザーの裾を引いた。
(え……)
イリア「〇〇様?」
〇〇「もう少しだけ……二人でいさせてください」
イリア「……!」
恥ずかしそうに顔をうつむかせる彼女の顔が本当に可愛らしい。
(嬉しい……)
イリア「わかりました、〇〇……」
〇〇「!」
顔を上げた彼女の頬に両手を添え、額に口づける。
〇〇「イリアさん……」
イリア「呼んではくれませんか? イリア、と。 仲の良い恋人同士みたいに」
笑いかけると、彼女も嬉しそうに目を細めた。
〇〇「イリア……」
イリア「はい、〇〇……」
そのまま、自分の腕の中に彼女を閉じ込める。
この特別な瞬間を、この温もりを生涯忘れたくないと、またひとつ花火が打ち上る中、私はそう思ったのだった…-。
おわり。