空に昇っていた太陽は、いつの間にか水平線に沈みかけている…-。
文化祭をゆっくり見て回ることができないほど、イリアさんの展示会は大盛況のまま終わることができた。
イリア「……すみません、〇〇様」
夕陽が差し込む教室で後片付けを手伝っている私に、イリアさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
イリア「本当に……何から何まで手伝わせてしまい」
〇〇「いえ、私もすごく楽しかったです。 たくさんの方々に展示を見ていただけて良かったですね」
イリア「はい。それに、今度展示を見にきてくださった方々と、魔術の研究をする約束もできました」
〇〇「お友達ができましたね」
イリア「友達……ですか」
イリアさんが瞳を閉じて、感慨深げにつぶやく。
〇〇「イリアさん……?」
イリア「……初めて友人というものができました。 母上の反対を押し切ってこの大学に通うと決めたものの……本当は不安で仕方なかったのです。 けれど今ではここに来てよかったと、心からそう思えます」
〇〇「……はい。 私もイリアさんと過ごせて本当に楽しいです」
すると、銀縁の眼鏡越しのイリアさんの目が綺麗に細められる。
(イリアさん……?)
イリア「私が言ったこと……覚えていらっしゃいますか?」
〇〇「え……」
――――――
イリア『この後、二人で文化祭楽しみませんか?』
――――――
(あのこと……)
甘い響きを思い出すと、ドキドキとまた胸が騒ぎ出してしまう。
イリア「結局、展示会が大忙しでゆっくりと他を見られませんでしたけど」
残念そうに、けれどどこか満足そうに笑うイリアさんの表情が、すごく魅力的に思えて……
イリア「〇〇様……これから二人だけで後夜祭をしませんか?」
〇〇「後夜祭……」
(二人だけって……)
イリア「〇〇様……いかがですか?」
すっと、彼の腕が私の前に差し出される。
いつもよりどこか積極的なイリアさんに、私の胸の高鳴りがおさまらない。
イリア「……〇〇様」
もう一度名前を呼ばれ、私は彼の腕に手を絡ませた。
〇〇「はい……是非」
ふと見上げれば、澄んだ瞳に優しく見つめられる。
その瞳に吸い込まれそうになりながら、私はこれから始まる素敵な時間に思いを馳せた…-。
…
……
彼に連れられ辿り着いた場所は、人気のない裏庭だった。
(ここで後夜祭を?)
私の考えていることを察したのか、イリアさんがふっと微笑む。
そして、返事の代わりに自分の手の中に球体を作りだした。
(真ん丸……水晶??)
イリアさんはその球体を、私の手にそっと乗せる。
(温かい……)
すると次の瞬間…-。
〇〇「……!」
手の中から七色の光が溢れ、その光は夜空へと弾け飛んでいく。
(わ……!)
そしてその光は、大きな花火となって夜空を彩った。
〇〇「すごい……! 綺麗な花火ですね」
夜空に舞う七色の光を見上げながら、私は感嘆の声を漏らした。
イリア「この花火の色は、〇〇様の心の色です」
〇〇「え……?」
空から視線を戻すと、光に彩られたイリアさんの顔が私をじっと見つめられていた。
イリア「先ほどの球体は、人の心を投影するものなのです。 だから、持った人によってこの花火の色は違います」
〇〇「……そうなんですか」
イリア「想像した通り、とても綺麗な色ですね」
イリアさんは花火を眺めながら、そうぽつりとつぶやく。
(私の心の色……)
二人並んで、七色の花火を見上げる。
自然にその距離は近づき、肩がぶつかり合った。
〇〇「あっ……すみません」
慌てて離れようとすると…-。
私の肩を、イリアさんはぐっと抱き寄せた。
〇〇「……!」
イリア「……嫌ですか?」
イリアさんは、伺うように私の瞳を覗き込む。
(嫌だなんて……)
ドキドキと胸が高鳴り、言葉が上手く出てこない。
言葉の代わりに、私は首を横に振って返事をした。
イリア「〇〇様……」
私の名前を呼ぶ、彼の声が耳をくすぐる。
(イリアさん……)
そっと目を閉じると、彼は私の唇に優しいキスを落とした。
私達を見守るように、花火が何度も何度も打ち上って……
イリア「初めての文化祭で、最高の思い出ができました。 〇〇様、ありがとうございます」
〇〇「私も、イリアさんと一緒にいることができて楽しかったです」
お互いの想いを伝え合うと、私達は再び見つめ合う。
イリア「〇〇様……」
引かれ合うように、私達はもう一度キスをする。
(この時間が……終わらなければいいのに)
そんなことを思いながら……
彼の魔法にかけられて、私はこの特別な夜に酔いしれていた…-。
おわり。