その後…-。
イリア「……本当にお恥ずかしい」
たこ焼きのことを勘違いしていたと知り、イリアさんは肩を落としてしまった。
〇〇「そんな落ち込まないでください」
イリア「いえ……これではミヤに笑われても仕方ありません」
ミヤというのはイリアさんの双子の弟さんで、明るく快活な性格で、国の人達から親しまれていると聞いていた。
イリア「ミヤだったら……彼ならきっと、この学園でも皆とあっという間に仲良くなるのでしょうね。 私は世間知らずで……人との付き合いも上手くできず」
(イリアさん……)
哀しげな表情に胸がちくりと痛み、私は思わず彼の手を握っていた。
イリア「……〇〇様?」
〇〇「イリアさん、自信を持ってください。 イリアさんは成績だってものすごくいいし……クラスの皆からも頼りにされています。 さっき見せてもらった魔術も本当に素敵でした」
イリア「……」
すると、イリアさんの眼鏡越しの瞳が優しく細められる。
イリア「……ありがとうございます、〇〇様」
〇〇「!」
ふわりと、彼の手が遠慮がちに私の髪を撫でる。
イリア「すみません……私のことでそんな顔をなさらないでください」
不器用な手つきで撫でられると、なぜだか胸がいっぱいになってしまう。
イリア「そうですね。外の世界が知りたいと思い、せっかくこの学園に来たのですから。 どれだけ失敗しても、何があっても……精いっぱい、ここで学びたいと思います。 〇〇様と、一緒に」
〇〇「……はい!」
イリアさんの手が、ゆっくりと私の髪から離れて行く。
少しだけ寂しさを感じながら、私は彼に微笑みかけたのだった…-。
…
……
それからも、私とイリアさんは校舎を巡り続けた。
イリア「あの暗い場所は、何でしょう?」
廊下の一番端の部屋に、真っ黒なテントが張られている。
〇〇「あれは……お化け屋敷みたいですね」
イリア「お化け屋敷?」
次の瞬間…-。
??「うおおおおおっ~」
〇〇「……!」
お化け屋敷のセットの中から、血だらけのメイクをした人が飛び出してきた。
(びっくりした……お化けの練習をしているのかな?)
イリア「〇〇様、後ろへお下がりください!」
イリアさんは私を庇うように前に立ち、お化けのメイクをした人を魔術で攻撃をしようとしている。
お化け役「……!」
〇〇「イリアさん、違います! その人は……」
イリア「えっ?」
その瞬間、イリアさんの手元が狂う。
イリアさんの手から放たれた氷が、お化け屋敷のセットに勢い良く飛んでいく…-。
〇〇「!!!」
お化け役「あーーーーーっ!」
大きな音を立てながら、セットは無残に崩れていった…-。
…
……
何とかセットを組み直し、私はほっと胸を撫で下ろす。
イリア「……申し訳ありませんでした」
お化け役「まあ、悪気はなかったんだし……被害もなかったし。気にしないでよ」
イリア「お優しいお言葉ありがとうございます。お詫びに、何かお手伝いできることはありませんか?」
お化け役「あっ、じゃあ内装作るの手伝ってよ! さっきの氷、セットに加えたら臨場感出そうだし」
その言葉に、イリアさんの顔が綻んでいく。
イリア「……! もちろんです」
イリアさんと私は、お化け屋敷の内装を手伝うことになった。
学生1「イリアさん、こっちの壁に色を付けてください」
学生2「ここに風船を浮かばせてくれるかな」
イリア「はい。お待ちください」
イリアさんは生き生きと動き回っている。
(イリアさん、楽しそう)
(でも、文化祭の展示発表のヒント……見つけられたのかな?)
私はイリアさんの元へ行き、こっそりと聞いてみる。
〇〇「イリアさん。何か展示の参考になるものはありましたか?」
イリア「そうですね……いろいろと見て回り、楽しく過ごせました。ありがとうございます」
無邪気に笑うイリアさんは、まるで宝物を見つけた男の子のように可愛かった…-。