第5話 外の世界

その後…-。

イリア「……本当にお恥ずかしい」

たこ焼きのことを勘違いしていたと知り、イリアさんは肩を落としてしまった。

〇〇「そんな落ち込まないでください」

イリア「いえ……これではミヤに笑われても仕方ありません」

ミヤというのはイリアさんの双子の弟さんで、明るく快活な性格で、国の人達から親しまれていると聞いていた。

イリア「ミヤだったら……彼ならきっと、この学園でも皆とあっという間に仲良くなるのでしょうね。 私は世間知らずで……人との付き合いも上手くできず」

(イリアさん……)

哀しげな表情に胸がちくりと痛み、私は思わず彼の手を握っていた。

イリア「……〇〇様?」

〇〇「イリアさん、自信を持ってください。 イリアさんは成績だってものすごくいいし……クラスの皆からも頼りにされています。 さっき見せてもらった魔術も本当に素敵でした」

イリア「……」

すると、イリアさんの眼鏡越しの瞳が優しく細められる。

イリア「……ありがとうございます、〇〇様」

〇〇「!」

ふわりと、彼の手が遠慮がちに私の髪を撫でる。

イリア「すみません……私のことでそんな顔をなさらないでください」

不器用な手つきで撫でられると、なぜだか胸がいっぱいになってしまう。

イリア「そうですね。外の世界が知りたいと思い、せっかくこの学園に来たのですから。 どれだけ失敗しても、何があっても……精いっぱい、ここで学びたいと思います。 〇〇様と、一緒に」

〇〇「……はい!」

イリアさんの手が、ゆっくりと私の髪から離れて行く。

少しだけ寂しさを感じながら、私は彼に微笑みかけたのだった…-。

……

それからも、私とイリアさんは校舎を巡り続けた。

イリア「あの暗い場所は、何でしょう?」

廊下の一番端の部屋に、真っ黒なテントが張られている。

〇〇「あれは……お化け屋敷みたいですね」

イリア「お化け屋敷?」

次の瞬間…-。

??「うおおおおおっ~」

〇〇「……!」

お化け屋敷のセットの中から、血だらけのメイクをした人が飛び出してきた。

(びっくりした……お化けの練習をしているのかな?)

イリア「〇〇様、後ろへお下がりください!」

イリアさんは私を庇うように前に立ち、お化けのメイクをした人を魔術で攻撃をしようとしている。

お化け役「……!」

〇〇「イリアさん、違います! その人は……」

イリア「えっ?」

その瞬間、イリアさんの手元が狂う。

イリアさんの手から放たれた氷が、お化け屋敷のセットに勢い良く飛んでいく…-。

〇〇「!!!」

お化け役「あーーーーーっ!」

大きな音を立てながら、セットは無残に崩れていった…-。

……

何とかセットを組み直し、私はほっと胸を撫で下ろす。

イリア「……申し訳ありませんでした」

お化け役「まあ、悪気はなかったんだし……被害もなかったし。気にしないでよ」

イリア「お優しいお言葉ありがとうございます。お詫びに、何かお手伝いできることはありませんか?」

お化け役「あっ、じゃあ内装作るの手伝ってよ! さっきの氷、セットに加えたら臨場感出そうだし」

その言葉に、イリアさんの顔が綻んでいく。

イリア「……! もちろんです」

イリアさんと私は、お化け屋敷の内装を手伝うことになった。

学生1「イリアさん、こっちの壁に色を付けてください」

学生2「ここに風船を浮かばせてくれるかな」

イリア「はい。お待ちください」

イリアさんは生き生きと動き回っている。

(イリアさん、楽しそう)

(でも、文化祭の展示発表のヒント……見つけられたのかな?)

私はイリアさんの元へ行き、こっそりと聞いてみる。

〇〇「イリアさん。何か展示の参考になるものはありましたか?」

イリア「そうですね……いろいろと見て回り、楽しく過ごせました。ありがとうございます」

無邪気に笑うイリアさんは、まるで宝物を見つけた男の子のように可愛かった…-。

 

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