数日後…-。
授業が終わった後、イリアさんが私の席へとやって来た。
イリア「〇〇様、この後はお忙しいでしょうか?」
弾んだ声から、イリアさんが上機嫌なことが伝わってくる。
(どうしたのかな?)
〇〇「イリアさん、何か良いことがあったんですか?」
イリア「それはまだ……秘密です」
(こんな表情、初めて見たかも……)
悪戯っぽいイリアさんの微笑みが、私の胸をくすぐった。
〇〇「この後なら、私は大丈夫です」
イリア「本当ですか!?」
イリアさんの表情が、一段と明るくなる。
イリア「では、一緒に来てください」
イリアさんは、ごく自然に私の手を引いて、教室を出て行く。
〇〇「……!」
(手を……)
一瞬驚いたけれど、楽しそうな彼の様子がなんだか私も嬉しくて、そのまま手を握り返した。
(どこに行くのかな?)
いつもより積極的なイリアさんに少し戸惑いながらも、私は胸を躍らせた…-。
そして、イリアさんが私を連れてきてくれたのは……
(えっ……真っ暗!?)
そこは、明かりのついていない真っ暗な教室だった。
〇〇「イ、イリアさん?」
イリア「少し待っていてください」
次の瞬間…-。
イリアさんが両手を広げると、淡い光を纏いながら一枚の鏡が現れた。
〇〇「……!」
息つく暇もないほど、イリアさんの手の中から次々に鏡が現れる。
(わぁ……)
そしてその鏡は、彼が手をかざした方へと移動し、次々と教室中に張り巡らされていく…-。
(教室中が鏡張りに……!?)
最後にイリアさんがパチンと指を鳴らすと、鏡は七色の光を反射し始めた。
(これって……)
〇〇「万華鏡みたいですね……!」
イリア「〇〇様、正解です」
イリアさんは、満足そうににっこりと微笑む。
(すごく綺麗……)
その幻想的な光景に、見入ってしまっていると……
イリア「気に入っていただけましたか?」
〇〇「はい……! すごく綺麗です……」
イリア「良かった……喜んでいただけて嬉しいです!」
美しく煌めく七色の光を見やり、イリアさんが目を細める。
イリア「新たに考えた魔術の一つなんです。これを文化祭に発表しようと思いまして……」
〇〇「すごく、素敵だと思います!」
(いつまでも眺めていたいくらい、綺麗……)
しばらくその景色を眺めていると、すとイリアさんの視線を感じた。
〇〇「イリアさん?」
イリア「……っ」
けれど、目が合うとすぐにその視線は私から外れてしまう。
イリア「いえ……っ、何でもないです」
イリアさんは、コホンと小さく咳払いをした。
イリア「〇〇様のお陰で、少し自信が持てました。ありがとうございます」
〇〇「いえ、そんな……私は喜ばせてもらっただけです。 でも良かった。これで文化祭の発表もできますね」
けれど、イリアさんは困ったように眉をひそめて……
イリア「ただ……新たな魔術をもう少し作りたいと思っているのですが、まだアイデアが浮かばないのです」
顎に手を当てて、深く考え込んでしまう。
(新しいアイデアか……)
〇〇「他のクラスを回ってみますか? 何かいいアイデアが浮かぶかもしれませんし」
イリア「なるほど……それは、いい考えですね! 〇〇様は、いつも私の思いつかないことを教えてくださる」
ポンと手を叩いた後、少し恥ずかしそうな眼差しを私に向けた。
イリア「あの……もしよろしければ、一緒に回っていただけますか? お恥ずかしながら、私は他のクラスに知り合いも少なく……。 〇〇様がいてくださると、心強いです」
〇〇「はい、もちろんです!」
眼鏡の奥のイリアさんの瞳が、嬉しそうに細められる。
私達はあらゆる教室を回り、一足先に文化祭の空気を味わってみることにした…-。