文化祭で歌の発表をしてみたい。
イリアさんからそう相談されて、言葉を詰まらせてしまうと…-。
イリア「すみません。困らせてしまいましたね。 歌は、やはり止めておきます。国に恥をかかせるわけにいきませんしね」
○○「そんなこと……無いと思います」
以前聴いた彼の歌声は、確かに音程は合っていなかったけれど、どこか優しい響きを持っていた。
イリア「○○様はお優しいですね。 ですが、困りました……」
イリアさんは、顎に手を当てて考え込んでしまう。
イリア「そうなると……文化祭で何をしたらいいのか悩んでしまいまして……」
大きなため息を吐いて、イリアさんが机に顔を伏せる。
その拍子に、机の上にあった手帳が開いた状態で床へ落ちてしまった。
(あっ……)
文化祭の日付の場所に、大きな花丸が書かれている。
更に、その日をカウントダウンするかのように、過ぎた日付にバツ印がつけられていた。
(イリアさん、文化祭を本当に楽しみにしてるんだ)
イリアさんは慌てて手帳を拾うと、照れたように微笑んだ。
イリア「見えてしまいましたよね……まるで幼い子どものようにはしゃいで、恥ずかしい限りです」
○○「そんなことないです。私だってとても楽しみにしています」
イリア「城以外の世界をあまり知らないので、私は学園生活が楽しくて仕方ないのです。 しかし、文化祭のような経験は初めてなので……一体何を発表していいのかわからなくて」
(真剣に悩んでるんだ……何か力になれたらいいのに)
それは、普段公務をテキパキとこなしているイリアさんからは、考えられない姿だった。
イリア「魔術の研究の方が数倍簡単ですね」
そうつぶやくと、ふうっと深いため息を吐く。
(魔術の研究……? そうだ)
○○「イリアさんの得意な魔術の研究結果を展示するのはいかがですか?」
イリア「魔術……」
けれどイリアさんは、困ったように眉尻を下げた。
イリア「それはいいのですが……皆さんは退屈ではないでしょうか?」
○○「私、魔術は使えないので、とっても興味があります」
そう言うと、イリアさんの憂いに満ちた表情が和らいでいく。
イリア「○○様にそう言っていただけると、心強いです」
(良かった……)
彼の優しい微笑みにつられ、私の頬も自然に綻ぶ。
午後の暖かな陽射しが、窓から教室に差し込んでいた…-。