学園都市・メモワール 影の月…-。
学園生活を通し、専門性の高い知識、マナーや協調性を身につけることを目的としたメモワール学園には、世界中の王族や子女達が、それらを短期間で学ぶために集まってくる。
(やっと、慣れてきたかな……)
校長に招待を受け、私がこの学園に通うようになってからしばらく……
――この学園では、もうすぐ文化祭が開催される。
(文化祭、楽しみだな)
そんなことを考えながら寮室に戻ろうとすると、教科書を教室に忘れたことを思い出した。
教室に行くと…-。
イリア「……」
(イリアさん……!)
イリアさんが一人、難しい顔をして席に座っていた。
イリアさんは、魔術の国・ソルシアナお第一王子…-。
性格も穏やかで、品行方正なイリアさんは国の皆から信頼と期待を寄せられている。
(どうしたんだろう、イリアさんが悩むなんて)
この学園へは、見聞を広げるためにお母様の反対を押し切って通うことを決めたと聞いていたけれど…-。
イリア「○○様!」
話しかけるのに躊躇していると、イリアさんが私に気が付いた。
ぱっと明るくなった彼の顔に、私は胸を撫で下ろす。
○○「難しい顔をされて、どうしたんですか?」
イリア「文化祭で何を発表しようかと考えていまして」
○○「文化祭で……?」
イリア「はい。せっかくここへ来ているのですから、私個人としても何か発表をと考えているのです」
○○「素敵ですね……!」
すると、彼の知性的な瞳が恥ずかしそうに細められる。
イリア「実はやってみたいことがありまして……」
○○「どんなことですか?」
イリア「歌の発表なんて、どう思いますか?」
○○「……!」
(イリアさんが、歌を……)
前に聴いたイリアさんの歌は、お世辞にも上手だとは言い辛くて……
イリア「……上手くないのはわかっているのですが、好きなものをと言われたので」
少し哀しげに目を伏せる彼の様子に、私は次の言葉を選んでしまうのだった…-。