月最終話 愛の始まり

ヴァイリーさんの傷の手当てをするため、私達は城へ戻ってきていた。

最初は、城へ戻ることを頑なに拒んでいたヴァイリーさんも、誰にも会わないという条件で、怪我の手当てを受けてくれた。

○○「……痛みますか?」

私は彼の体に慎重に触れる。

ヴァイリー「大丈夫だ……ジェスに撃たれた傷は、獣化したときにふさがってる」

それでも、毛に覆われた背中には痛々しい傷ができている。

(私を……守ってくれたから……)

○○「……ごめんなさい」

ヴァイリー「何でオマエが謝るんだよ」

困ったような顔をした後、ヴァイリーさんが重く低い声を発した。

ヴァイリー「……オレはこの国を去る。オマエも今度こそ帰れ」

胸がズキンと痛む。

○○「……それは、できません」

ヴァイリー「わからねぇヤツだな。オレはもう元の姿には戻れないんだ」

○○「でも……」

そのとき突然部屋のドアが開かれ、執事さんと城の兵士達が姿を現した。

兵士達は、剣をこちら側に向けている。

○○「……っ!執事さん……?」

執事「……ヴァイリー様、間に合わなかったのですね。獣化はこの国では忌むべきもの。残念ですが……」

ヴァイリー「……」

○○「ま……待ってください!」

私はヴァイリーさんと、執事さんの間に立つ。

執事「○○様……巻きこんでしまい、申し訳御座いませんでした。ですが、あとは我々の国の問題です」

(この国の事情とかは……よくわからない……だけど、このままでいいはずなんてない……!)

ヴァイリー「……よせ」

ヴァイリーさんは私の肩に手を置き、静かに声を発した。

ヴァイリー「いいんだ」

○○「駄目です……!ヴァイリーさんが討たれる理由なんて、どこにもありません……っ!」

執事「○○様。それは貴方のご意向でしょうか……?」

(えっ……?)

突然、私に視線が集まった。

執事さんは、訴えかけるような目で私を見つめている。

(……私をこの国に呼んでくれたのは、執事さんだった。執事さん、もしかして……)

○○「……そう、です。ヴァイリーさんを、討たないでください……」

執事「本来は……許されることではありませんが、あなたには、ヴァイリー様を目覚めさせてくれた恩がございます。……この場は、見なかったことにいたします」

執事さんの声に、城の兵士達が剣をおさめる。

ヴァイリー「……」

執事「ですがヴァイリー様……この国はもう、貴方を王子として迎え入れることはできないでしょう」

ヴァイリー「……ああ、わかってる」

執事「貴方の優しさを、私達はよく存じ上げております……どうぞ、お幸せに」

そう言い残して、執事さんとお城の兵士さんたちは部屋から出て行った。

(執事さん……)

ヴァイリー「……またオマエに、助けられちまったな」

○○「そんな……」

ヴァイリー「……オレはこれから、どうすればいいんだろうな……」

○○「……っ!」

私はうなだれるヴァイリーさんの頬に手をそっとあてた。

スチル(ネタバレ注意)

○○「……一緒に呪いを解く方法を探しませんか?まだ、間に合うかもしれません……」

ヴァイリー「……真実の愛か。あのおとぎ話みてぇなものを信じるのか?」

○○「……やっぱり、知ってたんですね」

ヴァイリーさんは、私の胸に顔を寄せた。

ヴァイリー「不思議だな。オマエの匂いはすげぇ落ち着く……」

ヴァイリーさんは、私の頬に優しく手を添えた。

ヴァイリー「オレは誰よりも○○を傷つけたくない。……けど、側にいて欲しいとも思ってる」

○○「……側にいます。だって、私は」

あのとき言いかけて、宙に吸い込まれていった言葉を紡ぎだす。

○○「ヴァイリーさんが、好きだから」

ヴァイリー「……こんな姿でもいいんだな?それに、これからどうなっちまうかわからねぇ」

私はうなずく代わりに、もう一度彼を抱き締めて額に口づけを落とした。

ヴァイリーさんはためらいがちに、でも甘えるように私の胸に顔を擦り寄せる。

ヴァイリー「うまく言えねぇんだけど、○○と想い合えた今からが、始まりのような気がするんだ」

(そう、ここからが始まり……真実の愛に、きっとたどりついてみせる)

窓の外から美しい光が差し込んでくる。

いつの間にか夜明けが訪れていた…―。

 

おわり。

 

<<月7話||月SS>>