月7話 変わらないあたたかさ

鋭い爪が私に向けて振り下ろされ、ぎゅっと目をつむる。

その瞬間、呻き声のような音が、背後から聴こえた。

(……えっ?)

恐る恐る目を開けると…―。

ヴァイリーさんの爪は私の後ろにいた狼を切り裂いていたのだった。

ヴァイリー「血の臭いに、集まってきやがったか……」

いつの間にか私達は狼の群れに囲まれていた。

(すごい数……!)

思う間もなく、狼達はいっせいに飛びかかってきた。

ヴァイリー「……!!」

ヴァイリーさんは、私の頭をぐいっと引き寄せ、そのまま胸に押し込んだ。

○○「ヴァイリーさんっ……!」

狼達の牙が次々に、私を庇っているヴァイリーさんに突き刺さる。

ヴァイリー「……っ!!」

(ヴァイリーさん、怪我してるのに……!)

○○「ヴァイリーさん!放してください……!」

ヴァイリー「うるせぇ……黙ってろ……」

(どうしよう……このままじゃ……)

ヴァイリーさんは、顔を苦しそうに歪ませる。

ヴァイリー「なんとか隙を作る……その間に逃げろ」

○○「ダメです……それじゃヴァイリーさんが!」

ヴァイリー「オレは別に、このまま喰われてもいい……」

○○「……っ!どうして……!?」

ヴァイリー「……今回の獣化はいつものとは違う。恐らく、時間切れだ。もう元の姿には戻れない」

(そんな……!)

ヴァイリー「オレはもう生きてても死んでてもどっちでも変わらない存在だ。……オマエは逃げろ」

○○「そんなの、ダメです……っ!」

思うより先に声に出ていた。

(呪いがどうとか、私にはよくわからない……けど)

私は、さっき気づいてしまった自分の気持ちを確かめる。

(私は、ヴァイリーさんのことが好き……。ヴァイリーさんが独りになってしまうなんて、絶対嫌だ……)

○○「私は、ヴァイリーさんを助けたい……!」

思わず叫んでしまっていた。

一瞬驚いたような顔をしたヴァイリーさんの腕を押し退け、私は狼達の前に立った。

ヴァイリー「……バカ野郎っ!」

狼達が、すぐに私に攻撃の矛先を向ける。

(……っ!)

その時、ヴァイリーさんの凄まじい咆哮が森中に響いた。

耳の鼓膜が破れそうな程の音量に怯えたのか、狼達は、その場から散り散りに逃げて行った。

ヴァイリー「……無茶すんな!!これだからオマエは!」

○○「……ごめんなさい」

しゅんとすると、いつものように頭に優しく手が置かれる。

ヴァイリー「無事で、良かった……」

(ヴァイリーさん、姿は変わってしまったけれど……)

手から伝わるその熱は、変わらないヴァイリーさんの温もりだった…―。

 

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