闇に染まった森を、足の痛みを忘れて走る。
(執事さんが、ヴァイリーさんは森へ行ったと言ってた……)
(どこにいるの……!?)
その時、鈍い音が森に響いた。
(今のは……銃声!?)
音がした方に走るとヴァイリーさんの姿があった。
○○「……っ! ヴァイリーさん!」
ヴァイリーさんはしゃがみ込み、脇腹から血を流している。
ヴァイリー「○○……、なんでここに……早く逃げろ!」
○○「えっ……」
ヴァイリーさんの前方に、もう一人姿が見えた。それは……
ジェス「来てくれて手間が省けたよ。君も始末するつもりだった」
敵意に満ちた禍々しい声が、私に向けられる。
ジェス「邪魔なんだよ……せっかく兄さんが眠りについて、王位が継げると思ったのに。 ご丁寧に起こしてくれちゃってさ。 この上、君の力で兄さんの呪いが解けたら都合が悪いからね」
銃口が私に向けられる。
ジェス「さよなら、お姫様」
私はまぶたをきつく閉じた。
(撃たれる……っ)
耳が割れそうなほどの激しい音が辺りに響く。
(……痛みが、ない?)
まぶたをゆっくりと開けると…-
○○「……っ!!」
ヴァイリーさんが私を、しっかりと抱きしめていた。
ヴァイリー「……大丈夫、か?」
○○「ヴァイリーさん……、腕から、血が……」
ヴァイリーさんは、私を抱く力を強くする。
ヴァイリー「無事だな……よかった」
ジェス「ちっ、まあいい。今度こそ……」
なおも引き金を引こうとするが、
ヴァイリー「……!」
ヴァイリーさんが凄まじい速さでジェスに向かい、突進する。
ジェス「うわああぁっ!」
ヴァイリーさんに噛みつかれたジェスの肩から、血が流れ出した。
ヴァイリー「○○に手を出すな……でないと、今ここで殺す!」
ヴァイリーさんの眼光が鋭く光る。
ジェス「わ、わかった……! 約束する……」
彼は怯えた様子で、体を引きずりながら去って行った。
同時に、ヴァイリーさんが地面に崩れ落ちる。
○○「ヴァイリーさん……!」
ヴァイリー「来るな! ……怪我で、呪いへの抵抗力が弱まっている」
ヴァイリーさんは、苦しそうに息を漏らしている。
ヴァイリー「いつ獣化するかわからない……早く去れ……」
○○「できません……!」
ヴァイリー「わかれよ! オマエを傷つけたくないんだよ……。 何でオレにそんな構うんだよ!」
○○「……っ」
ヴァイリーさんのことを想うと、胸が苦しくなる。
(最初は……ちょっと怖かった)
―――――
ヴァイリー『目覚めさせてくれて……ありがとな』
ヴァイリー『……オマエ、いい匂いがするな。陽だまりみたいな』
ヴァイリー『…オマエや街の皆を傷つけたくないんだよ……っ!』
―――――
(本当は不器用で、優しくて……)
(独りにならないで欲しい。苦しまないで欲しい……)
いつの間にか、私の胸にいっぱいになっていた気持ち。
○○「私は……ヴァイリーさんのことが……」
ヴァイリーさんと見つめ合った、その時……
突然ヴァイリーさんの体が白い光に包まれた。
○○「ヴァイリーさ……」
まぶしい光の中心に向かって、私は懸命に手を伸ばした。