森から城へ戻った頃には、、すっかり日が暮れてしまっていた。
夜になり、少し空気の冷えた部屋で私は足の手当てを受けていた。
ヴァイリー「……どうだ?」
ヴァイリーさんは、慣れない手つきで私の足に冷たい布を当ててくれる。
○○「……大丈夫です」
―――――
ジェス『やぁ兄さん……呪いは解けそう? そろそろ時間切れじゃないかと思って、心配してるんだよ』
―――――
(あの言い方だと、ヴァイリーさんが呪いに……)
ヴァイリー「……オマエはこの国からもう去れ」
○○「……っ!」
唐突に放たれた言葉に胸が痛んだ。
ヴァイリーさんは私の頭に、ポンと手を置く。
ヴァイリー「……だから。オマエのその顔を見んのは苦手なんだよ。 オレには、獣化の呪いがかかってる」
ヴァイリーさんは、ぽつりぽつりと低い声で話し始めた。
ヴァイリー「この国の王族として生まれる時稀にかかってまうらしくてさ……運ねーよな。 街の奴らは半人半獣だろ?あれが普通なんだ。 けど獣化の呪いは、完全に恐ろしい獣の姿になっちまう」
○○「でも、ヴァイリーさんも街の人達と同じ姿です……」
ヴァイリー「今は大丈夫だけど、夜になると勝手に獣化しちまう時があるんだ。 街でも噂になってただろう? 誰かに見られちまったかな。 獣化はこの国では忌むべきもの……討伐対象だ」
(そんな……)
○○「呪いを解く方法は……?」
ヴァイリー「さぁな。先代達の中には解けたって人もいたって聞いたけど、どうだか。 ……それにたぶん、もうすぐ時間切れだ」
○○「時間切れ……?」
ヴァイリー「呪いを特にもタイムリミットがあるんだよ。 それを過ぎると、完全に獣の姿になって元に戻れなくなる。 最近、獣化することが多くなってきた……もうすぐ時間切れなんだと思う」
そこまで言って、ヴァイリーさんは私に背を向けた。
ヴァイリー「明日、執事にオマエを送らせる。準備しとけよ」
○○「ここにいたいです……」
思わず気持ちがこぼれてしまう。
ヴァイリー「……駄目だ。自分の立場考えろよ」
○○「待ってください!」
部屋から出て行こうとするヴァイリーさんの腕を、思わず掴んだ。
○○「……時間切れになったら、どうするつもりなんですか?」
ヴァイリー「この国出て一生独りで生きる。獣化した先代達も、ずっとそうしてきた」
○○「そんな……っ!」
ヴァイリーさんの瞳が、怯えたように揺れる。
ヴァイリー「オレは怖いんだ…! 獣化したオレを、皆がどんな目で見るか……。 怒りに駆られて、理性を失うかもしれない……オマエや街の皆を傷つけたくないんだよ……っ!」
そう言って私の手を振り払い、今度こそ部屋から出て行った。
(どうしたら、いいの……?)
一人残された私は、呆然とその場に立ちすくむことしかできなかった。
―――――
ヴァイリー『……ったく、あのおっちゃんは。ホラ、貸せ』
ヴァイリー『……オマエ、いい匂いがするな。陽だまりみたいな』
―――――
(ヴァイリーさん……!)
祈るような気持ちで顔を上げると、棚に『国記』と書かれた分厚い本が並んでいた。
○○「この国の……歴史?」
本に手を伸ばし、食い入るように呪いについて書かれた項目を探した。
(何か……何かないの……?)
手のひらが本のインクで真っ黒になった頃……ある記載を見つけた。
――呪いは、真実の愛によって解ける――
○○「真実の、愛……?」
呪いを解く方法というには、あまりにも抽象的なものだった。
でも、他に手がかりがない今は、それが一筋の希望のように思えた。
(ヴァイリーさんはこのことを知ってるの……?)
気がつくと私は、部屋を飛び出していた…-。