第3話 ヴァイリーさんの弟

街を見学した日から数日…-。

あれ以来、ヴァイリーさんになんとなく避けられている気がして、私は一人で城の近くの森へと来ていた。

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街の人『ご存じないですかい? 獣化の呪いが出たって』

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(あの時のヴァイリーさんの表情が忘れられない……)

??「君、一人?」

突然の声に驚いて振り返ると、一人の男性が立っていた。

赤黒い髪に、漆黒の瞳。

髪が長いことと背が少し低いことを除けば、ヴァイリーさんによく似ている…-。

私はなぜだか恐ろしさを感じた。

??「ヴァイリーに似ているって、思ってる?」

(えっ……)

頭の中を読まれたようで、胸がドキッとする。

ジェス「初めまして、ヴァイリーの弟のジェスです」

(弟さん……?)

ジェス「君がヴァイリーを目覚めさせた例のお姫様か」

○○「……っ!」

いきなり腕を掴まれる。

ジェス「本当、余計なことをしてくれたね」

ジェスさんの目には、私に対する明らかな敵意が宿っていた。

腕が折れそうなくらい強い力で掴まれ、体中に恐怖が走る。

(怖い……!)

○○「……っ!」

あらん限りの力を腕に込めて、なんとか彼の手を振り解いたけれど、その拍子に、地面に倒れ込んでしまった。

ジェス「おやおや……大丈夫かい?」

そう言って、ニヤリと笑みを浮かべながら私に歩み寄る。

(来ないで……!)

ヴァイリー「何している!?」

声をした方を見ると、ヴァイリーさんの姿があった。

○○「ヴァイリーさんっ……!」

すがるように声を上げると、ヴァイリーさんが猛然と駆け寄り、助け起こしてくれた。

そして私を背中にかばうように、ジェスさんとの間に立ってくれる。

ヴァイリー「てめぇ、どういうつもりだ!」

ジェス「やぁ兄さん。呪いは解けそう? そろそろ時間切れじゃないかと思って、心配してるんだよ」

ヴァイリーさんの顔が、さっと青ざめる。

ジェス「あれ、もしかして彼女、知らないの……? ……くくっ」

ヴァイリー「黙れ!!」

ジェスさんに殴りかかろうとするヴァイリーさんを見て、私は…-。

○○「ヴァイリーさん……!」

思わず叫ぶと、ヴァイリーさんはハッとした顔をして動きを止めた。

ヴァイリー「……わりぃ。オマエがいる前で」

ジェス「じゃあね兄さん。せいぜい彼女に嫌われないようにね」

ヴァイリー「待てっ……!」

ヴァイリーさんが声を上げたけれど、ジェスさんは瞬く間に森の奥へと消えて行った。

ほっとして胸を撫で下ろしていると…-。

ヴァイリー「……弟がすまなかったな」

ヴァイリーさんは申し訳なさそうに顔を伏せた。

(顔色が、すごく悪い……)

○○「ヴァイリーさ……」

手を伸ばそうとした時……

○○「……っ」

足に痛みが走り、私はしゃがみ込んでしまう。

ヴァイリー「おい、大丈夫か!?」

心配そうに、ヴァイリーさんが私の顔を覗き込む。

(さっき転んだ時に、くじいたのかな……)

ヴァイリー「ちょっと腫れてるな……ったく。ホラ」

ヴァイリーさんが私に背中を向け、おぶさるように促してくれる。

少しためらいながら、私はヴァイリーさんの背中に体を預ける。

○○「……あ、ありがとうございます」

(……広くて、温かい)

後ろから少しだけ見える彼の頬が、赤く染まっている。

(ヴァイリーさんも、照れてる?)

触れ合う部分から彼の熱が伝わり、心臓の音が大きくなる。

それが聞こえてしまわないよう、焦って言葉を紡いだ。

○○「お……弟さんがいたんですね」

ヴァイリー「仲はさっき見た通りだけどな。 ……いわく付きのオレが気にいらねぇんだろうな」

○○「いわく付き……?」

(……それって、さっき言ってた呪いのこと?)

(気になるけど……きっと、話したくないことなんだよね)

○○「……ヴァイリーさん、助けてくれてありがとうございました」

ヴァイリーさんは驚いたように、顔をこちらに向けた。

ヴァイリー「……聞かねぇんだな、さっきのこと」

すぐまた前に向き直るその顔は、どこか安心しているように見えた。

ヴァイリー「……オマエ、いい匂いがするな。陽だまりみたいな」

○○「え……?」

ヴァイリー「……っ! オレは、何を言って……!」

背中から伝わるヴァイリーさんの熱が一層増し、私も頬を染めた。

ヴァイリー「……オマエといると、調子狂う」

(……胸がふわふわする)

(なんだろう、この気持ち……)

不思議な感情で胸がいっぱいになって、私はそれ以上何も言うことができなくなってしまった…-。

 

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