その後も数日間、私はマルタンさんに連れられてヴァン・ブリュレを巡っていた。
彼は王子なのに、なんだか城には居づらいみたいで、毎日私を街で出迎えてくれていた…―。
マルタン「王子だなんて年はとっくに超えているからね。城にいると、いろいろと煩いんだよ」
(でも……これ以上、彼の好意に甘えてばかりじゃだめだ)
(マルタンさんは大人だから何も言わないけれど……ご迷惑をおかけしてるかもしれない)
そんなことを思って、私は翌日この国を離れることに決めた。
けれど…―。
(もう一度、ダーツをしているところ、見てみたいな……)
彼への、憧れにも似た想いは、募るばかりだった…―。
…
……
夕方になり、私は待ち合わせ場所でマルタンさんに再会した。
マルタン「……俺がダーツをする姿を見たいって?」
○○「はい」
マルタンさんは頷くと、くすりと笑って私の手を取った。
マルタン「いいよ、ちょうど俺の知り合いがダーツバーでマスターをやってる。行ってみるかい?」
○○「……はい!」
嬉しさに大きく頷くと、彼は声を上げて笑った。
…
……
手をひかれて半地下にあるバーの扉を開くと、気のいいマスターが声を掛けてきた。
マスター「いらっしゃいませ。おや、その子が噂のお嬢さんですか」
(噂?)
マスター「マルタン様が、珍しくひとりの女性に入れ込んでいると……確かに、可愛らしい方ですね」
マルタン「おいおい、人聞きの悪いことをいわないでくれよ」
苦笑して、マルタンさんは私を店の奥へとエスコートする。
すると、店内にいた女性達の視線が彼に集まった。
(確かに……マルタンさんに、素敵な女性がいっぱい寄ってきてもおかしくないよね)
胸にほんの少しの痛みを感じながら、気付かれないように彼の顔を仰ぎ見る。
いかにも大人らしい彼が浮かべるのは、余裕と自信に満ちた笑み……
(こんな人が、どうして私の相手をしてくれるんだろう?)
そう思いはするものの、今夜は彼と過ごせる最後の日……
私は気を取り直して、背筋を伸ばした…―。