第3話 プレシャス・タイム

マルタン「よし、今日は○○ちゃんのために、オジサンが素敵なものをいっぱい教えてあげよう」

それから……

マルタンさんは私を、ヴァン・ブリュレの様々な場所へ案内してくれた。

見るからに高そうな高級菓子店に、センスのいいオシャレな雑貨屋……

マルタン「あの服なんて、君に似合いそうだね」

○○「どれですか?」

マルタンさんの視線の先のショーウィンドウには、桜色の上品なドレスが飾られていた。

マルタン「おいで、○○ちゃん」

手を引かれ、彼と一緒にショップの扉を潜る。

店員「いらっしゃいませ、マルタン様。今日は、可愛らしいお嬢さんをお連れですね」

馴染みの店なのか、店員さんはマルタンさんを見て、気さくに微笑んだ。

マルタン「このお嬢さんに表のドレスを。それに似合いそうなアクセサリーなんかも見せてくれるかい?」

店員「かしこまりました」

○○「え……」

マルタン「いいからいいから」

しばらくすると……

店員の女性はドレスと様々なアクセサリーを持って戻ってきた。

○○「綺麗なドレスですね」

(でも私にはまだ少し早いかな?)

パーティにでも来ていくような、ドレスを見て、困ったように笑うと…―。

マルタン「こういうのは好みじゃないかい?」

マルタンさんが、くすりと私に笑いかけた。

○○「見るのは嫌いじゃないです、でも自分では着る機会がなくて……」

マルタン「機会を与えてやるのは男の仕事だよ。俺がこのドレスに相応しい場所へ、○○ちゃんを連れて行ってあげよう」

○○「えっ……」

優しく、余裕のある眼差しを向けられて、胸の鼓動が少しだけ早まる。

店員さんの勧めもあって、試着室でドレスに着替えてみることにした。

マルタン「……どうだい?」

○○「ちょ……ちょっと待ってください」

(なんだか恥ずかしいな……)

まごつく手で、背中のホックを止めて、試着室のカーテンをおずおずと開ける。

○○「……どうでしょうか?」

マルタン「……っ!こいつは見違えたよ」

顎に指を掛けて、マルタンさんが感嘆の声を漏らす。

○○「おかしくないですか?」

マルタン「おかしなもんか、すごくいいよ。大人っぽくて、でも初々しくて……。こっちに来て、鏡の前で見てごらん?」

○○「あっ……」

腰をぐっと抱き寄せられて、ふわりと彼の首筋からほのかなフレグランスが香ってくる。

(なんだろう、この香り……甘くて落ち着いていて、いい匂い)

マルタン「ほら、とても綺麗だ……」

○○「……っ」

目の前に映っているのは、いつもとは違う私とマルタンさんだった。

彼は囁くように私の耳元へ唇を寄せて……

マルタン「やっぱり俺の思った通りだ、君に良く似合う」

低めの声が耳に届くと、心臓が大きく鳴った。

マルタン「君もそう思わないかい?」

○○「ありがとうございます」

マルタン「礼をいわれるようなことじゃないよ、俺は思ったことは口にせずにはいられない性格なんだ」

マルタンさんの長くて男らしい指先が私の髪をひと房すくう。

鏡の前で見せつけるように、彼はその髪に唇を落とした。

(どうしよう……)

恥ずかしさに、思わずうつむいてしまう。

マルタン「ごめんごめん、からかう気はなかったんだよ。ただ君を見てると……ダイヤの原石を見つけたような気がしてね。つい恋人みたく振る舞いたくなったんだよ」

○○「マルタンさん……」

大仰な言葉を自然に言う彼に、私はひとりでますます頬を染める。

マルタン「ああ、こんなこというと、もっと信用されなくなるかな、困ったな……」

優雅に口元へ笑みを浮かべるマルタンさんは、全然困っているようには見えなかった…―。

 

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