マルタン「君のようなお嬢さんに助けられて、ただで帰すわけにはいかないね」
こうしてマルタンさんが私を連れてきたのは…―。
○○「ここは……?」
そこは装飾豊かな建物が折り重なる、おしゃれな雰囲気の街並みで……。
辺りを見回すと、甘く芳醇な香りが鼻先を掠める。
マルタン「俺の住むヴァン・ブリュレの中心街だよ。目覚めさせてくれた、ほんのお礼に君を案内しようと思ってね」
マルタンさんが人の行き来するメインストリートを指差す。
その先にあったのは、オープンテラスのこじんまりとしたカフェだった。
マルタン「○○ちゃん、ブランデーをたしなんだことはあるかい?」
○○「あまり、ありません」
マルタン「そいつはもったいない!この国のブランデーは一級品なんだ。度数の高いお酒は無理でも、女の子は甘いお菓子なら大好きだろ?」
そういうと、マルタンさんは指を鳴らし、店員さんを呼びつけた。
しばらくすると、テーブルにお菓子が運ばれてきた。
マルタン「どうぞ、召し上がれ」
○○「いいんですか?」
マルタン「もちろんだよ」
白いお皿に載せられているのは、小さくカットされたフルーツケーキだった。
フォークで切り分けて、口元に運ぶと……
○○「おいしい……!」
鼻に抜ける軽やかなブランデーの香りは、どこか花畑を思い起こさせる。
まぶたの裏に広がった色とりどりの花々が咲く情景に、ふわっと頬に熱を感じた。
○○「すごくお酒がきいてるのに、重くなくて、これ本当に美味しいです」
すると…―。
マルタン「うんうん、素直でカワイイ反応だね」
ケーキを頬張る私を見て、マルタンさんが満足げに頷く。
マルタン「なんだか屈託なく笑う君を見てると、俺まで嬉しくなってくるね。よし、今日は○○ちゃんのために、オジサンが素敵なものをいっぱい教えてあげよう」
にこやかに瞳を細めていうと、マルタンさんは椅子から立ち上がった。
(……楽しみ)
ほのかに漂うブランデーの香りと、素敵な体験に、私の心はこの上なく弾んでいた…―。