ブランデーの国・ヴァンブリュレ 影の月…―。
指輪からもたらされた光の中で、新たに一人の王子が目を覚ました。
??「う……まぶしいな、ずいぶん長く眠っていたみたいだが……」
頭を左右に振り動かすと、その人は私に視線を合わせた。
??「ありゃ、俺は女の子に助けられたのか……ありがと、お嬢さん」
○○「あなたは……?」
マルタン「俺かい?俺の名前はマルタン。ブランデーの国の王子……つうには少し年を取り過ぎてるかな」
マルタンさんは、あごひげに指をやると、喉の奥を鳴らして笑った。
(ブランデーの国の王子様……この人が?)
白いソフトハットに深紅のシャツ、緑色のスカーフを品良く着こなしていて…―。
口元に浮かべられた余裕のある笑みが、いかにも大人びて見える。
マルタン「できれば、君の名前も聞いていいかな?」
○○「あ……すみません、お名前を聞くなら、まず自分からですよね」
マルタン「いいや、俺は構わないよ。けど、君みたいなきれいなお嬢さんに出会って、名前も聞かないんじゃ男が廃るだろ?」
○○「……っ」
私の手を取ったマルタンさんが、指先に口づける。あまりにも自然に口づけられて、胸が大きく跳ねた。
○○「……○○です」
マルタン「へえ、○○ちゃんか。姿に違わずカワイイ名前だ……。君のようなお嬢さんに助けられて、ただで帰すわけにはいかないね」
マルタンさんは帽子を被り直すと、もう一度口元に、柔らかい笑みを浮かべた…―。