月SS 重なる手

○○がこの城に滞在し始めてから、数日後の真夜中…―。

リカ「俺がこの国の王子だってバレたら、普通の付き合いはできなくなるかもしれないだろ?」

俺は自室に招き入れた彼女に、柄にもなく心の内を打ち明けていた。

○○「……」

リカ「……なんだよ、悪いかよ?」

○○「悪いとかではなくて……」

どこか煮え切らない表情の○○が、俺へと視線を向ける。

リカ「仕方ないだろ、俺が王子なのは変えられないし。 けど……違う自分になれば、俺は楽しく笑ってられるんだ」

○○「違う自分……? そうなの……かな」

(……? こいつ、さっきから何なんだ?)

リカ「何が言いたいんだよ、お前」

俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。

○○「だって……じゃあ、街で過ごしたリカは、リカじゃなかったってこと?」

リカ「……そんなわけないだろ」

○○「だったら、やっぱりリカはリカだよ。 ダークなんて名前を使わなくても……リカと一緒にいてくれる人は、たくさんいるよ」

(……!)

○○は俺が心の奥底で欲していた言葉を、いとも簡単に口にする。

けれど……

リカ「……。 あー……うるせえ女」

○○「リカ…―」

リカ「だったら…―。 ○○、お前も傍にいてくれるのか?」

(俺は、王子ってだけで都合よく近づいたり……)

(そのくせ肝心な時に離れてく奴なんて、山ほど見てんだ)

(さっきの言葉が嘘じゃねえってんなら……お前自身が証明してみせろよ)

○○「……っ、リカ……さん?」

主人公は驚いたような表情を浮かべ、なぜか俺を以前のように『さん』付けで呼ぶ。

リカ「お前なぁ。 リカさんじゃなくて、リカって呼べよ」

(せっかく距離、近づいたのに……)

(今さら『さん』付けなんて、ねえだろ)

苛立ちから、思わず○○の手首を強く掴んでしまう。

(それとも……)

(お前は、やっぱり俺の傍になんて……)

(……っ)

唐突に湧いた不安は、あっという間に俺の心を蝕んでいき……

気づけば彼女の手首を掴む指からも力が抜けていた。

リカ「なあ、いてくれんのか? 俺が……お前を欲しいって言ったら、いてくれるのかよ……」

彼女を真っ直ぐに見つめながら、すがるように問い詰める。

けれども……

○○「……」

(何で、黙ってんだよ)

(やっぱりさっきの言葉は、その場しのぎの嘘なのか?)

(けど、中途半端に期待持たせるようなことしといて、今さら嘘なんて……)

(……駄目だ。そんなの許さねえ)

リカ「俺、拒否されるの、すっげー怖いんだけど?」

○○「リカ……」

俺が○○の逃げ道を塞ぐように言い放つと、彼女は考え込むような仕草を見せた後、口を開く。

○○「リカのこと、拒否する人なんていないよ……」

リカ「違う、俺は皆じゃなくて、お前に拒否されたくない」

(他の奴なんかどうでもいい)

(今は目の前のお前から、確かな言葉をもらいたいんだ……)

恐怖で早鐘のように打つ鼓動をどうにかして抑えながら、思いの丈をぶつける。

すると、少しの間の後…―。

(○○……?)

それまで頑なだった彼女の雰囲気が、どことなく和らいだのを感じる。

そして……

○○「私……リカと一緒にいる」

(……!)

彼女の言葉に、早鐘のように打つ俺の鼓動はさらに加速していった。

リカ「じゃあ俺のこと、好きなのか?」

○○「……っ」

リカ「なんとか言ったらどうなんだよ」

一緒にいるという彼女の言葉にいてもたってもいられず、思わず矢継ぎ早に問い詰めてしまい、俺の目の前で○○はどこか困惑したような表情を浮かべていた。

けれども……

○○「……」

(え……?)

○○の手首を握る俺の手に、彼女のもう片方の手がそっと重ねられた。

(これって、つまり……)

(……何だよ、もう)

(それならそうと早く言えってんだよ)

(……何だよ……)

抱いていた恐怖が全て喜びへと変わり、思わず笑みがこぼれてしまった後……

リカ「……」

やや強引に彼女へと体を寄せ、鼻先が触れ合いそうな距離で見つめ合う。

そして……

リカ「○○……」

俺は心に秘めた愛おしさを全て込めるかのように、低く甘い声で名前を呼び、ゆっくりと彼女の太腿へと指を滑らせたのだった…―。

 

おわり

 

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