月7話 城の中の自分

リカ「この話、もう終わりな」

○○「え? 終わりって……」

リカ「終わりは終わり」

○○「話せって言ったのは、リカなのに…―」

リカ「俺が聞きたくないから!」

そう言い捨てて、リカは部屋のバルコニーに向かう。

乱暴に開けられた窓から、冷たい夜風が吹き込んでくる。

リカ「……」

リカは静かに、バルコニーから遠くを眺めていた。

○○「ごめんなさい……私、気に障ること言った?」

リカ「……こっち来いよ」

○○「え?」

リカ「いーから!」

○○「は、はい」

こちらを振り向くことなく言い切るリカの後を追って、バルコニーに出ると……

○○「わ……」

バルコニーから見下ろすと、遠くで城下町の灯りがちらちらと星のように揺らめいていた。

○○「綺麗……」

リカ「あそこでは、こんな時間でもまだ人が起きてて、酒飲んだり、楽しく話したりしてるんだろうな。 何で、王子になんて生まれたんだろ」

○○「え……?」

リカが、頭を掻きながら私に向き直る。

リカ「さっきのは俺が悪かった、なんか痛いとこ突かれた気がして……」

○○「リカ……?」

リカ「城の中にいると……退屈で暇で暇で死にそうになる。 だから、街を出歩くようになったんだ。街の中だと賑やかだしな」

○○「……」

街にいる時のリカの、楽しそうな笑顔を思い出す。

リカ「ほら、俺、優秀だから。政務もなんなくこなせちまうし。 周りにもソンケーされて、毎日、苦労せずに過ごして……。 でも、街は……俺の知らないことに溢れてて、皆も俺に遠慮とかせずに絡んできて。 ポーカーだって、最初は負けっぱなしだったんだけど! そのうちコツがわかるようになってさあ」

リカはこの上なく楽しそうに話すのに、なぜだか私は胸を詰まらせて、そっと彼に寄り添った。

いつか中庭で座った時よりも近く……

だけど今日はリカの方から距離を詰めてくることはない。

リカ「ほんとは部屋の中に一人でいるのも嫌。 そのうち、街にいないと不安になるようになった……一人じゃないんだなって感じたくて」

○○「そうだったんだ……ねえ、どうして私を呼んだの?」

リカ「面白そうだったから。 初めて会ったときは、俺を目覚めさせることができるなんてすげえヤツって思った。 ちょっと、興味が湧いたんだ」

星空の下、リカの悪戯っぽい眼差しが私に注がれる。

リカ「実際会ってみると…―」

○○「?」

リカ「面白いっつーか、変なヤツだった」

○○「……」

少しムッとしたのが伝わったのか、リカが面倒くさそうな顔をした。

リカ「褒めてるんだぞ? んな顔すんなよ、ウザい女だな」

○○「……っ」

リカ「あ……いや、今のは言い過ぎた……」

私がうつむくと、リカの声が控えめになった。

沈黙が訪れて…―。

○○「あの……」

リカ「何?」

○○「さっきの話……名前を隠して本物の自分じゃないのはもっと寂しくないんですか?」

リカ「は……?」

一瞬、虚をつかれたように、リカが少年のような表情をのぞかせた。

リカ「それは……そうかもしれないけど……。 俺がこの国の王子だってバレたら、普通の付き合いはできなくなるかもしれないだろ?」

○○「え……」

小道に吐き捨てるようにいわれた言葉は、いつもの彼らしくはなかった…―。

 

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