リカ「この話、もう終わりな」
○○「え? 終わりって……」
リカ「終わりは終わり」
○○「話せって言ったのは、リカなのに…―」
リカ「俺が聞きたくないから!」
そう言い捨てて、リカは部屋のバルコニーに向かう。
乱暴に開けられた窓から、冷たい夜風が吹き込んでくる。
リカ「……」
リカは静かに、バルコニーから遠くを眺めていた。
○○「ごめんなさい……私、気に障ること言った?」
リカ「……こっち来いよ」
○○「え?」
リカ「いーから!」
○○「は、はい」
こちらを振り向くことなく言い切るリカの後を追って、バルコニーに出ると……
○○「わ……」
バルコニーから見下ろすと、遠くで城下町の灯りがちらちらと星のように揺らめいていた。
○○「綺麗……」
リカ「あそこでは、こんな時間でもまだ人が起きてて、酒飲んだり、楽しく話したりしてるんだろうな。 何で、王子になんて生まれたんだろ」
○○「え……?」
リカが、頭を掻きながら私に向き直る。
リカ「さっきのは俺が悪かった、なんか痛いとこ突かれた気がして……」
○○「リカ……?」
リカ「城の中にいると……退屈で暇で暇で死にそうになる。 だから、街を出歩くようになったんだ。街の中だと賑やかだしな」
○○「……」
街にいる時のリカの、楽しそうな笑顔を思い出す。
リカ「ほら、俺、優秀だから。政務もなんなくこなせちまうし。 周りにもソンケーされて、毎日、苦労せずに過ごして……。 でも、街は……俺の知らないことに溢れてて、皆も俺に遠慮とかせずに絡んできて。 ポーカーだって、最初は負けっぱなしだったんだけど! そのうちコツがわかるようになってさあ」
リカはこの上なく楽しそうに話すのに、なぜだか私は胸を詰まらせて、そっと彼に寄り添った。
いつか中庭で座った時よりも近く……
だけど今日はリカの方から距離を詰めてくることはない。
リカ「ほんとは部屋の中に一人でいるのも嫌。 そのうち、街にいないと不安になるようになった……一人じゃないんだなって感じたくて」
○○「そうだったんだ……ねえ、どうして私を呼んだの?」
リカ「面白そうだったから。 初めて会ったときは、俺を目覚めさせることができるなんてすげえヤツって思った。 ちょっと、興味が湧いたんだ」
星空の下、リカの悪戯っぽい眼差しが私に注がれる。
リカ「実際会ってみると…―」
○○「?」
リカ「面白いっつーか、変なヤツだった」
○○「……」
少しムッとしたのが伝わったのか、リカが面倒くさそうな顔をした。
リカ「褒めてるんだぞ? んな顔すんなよ、ウザい女だな」
○○「……っ」
リカ「あ……いや、今のは言い過ぎた……」
私がうつむくと、リカの声が控えめになった。
沈黙が訪れて…―。
○○「あの……」
リカ「何?」
○○「さっきの話……名前を隠して本物の自分じゃないのはもっと寂しくないんですか?」
リカ「は……?」
一瞬、虚をつかれたように、リカが少年のような表情をのぞかせた。
リカ「それは……そうかもしれないけど……。 俺がこの国の王子だってバレたら、普通の付き合いはできなくなるかもしれないだろ?」
○○「え……」
小道に吐き捨てるようにいわれた言葉は、いつもの彼らしくはなかった…―。